第一話
重厚な石造りの会議室。高い天井に響く自らの軍靴の音が、アリア・フィオルの不安を煽っていた。
円卓の向こう側には、勲章を胸に飾った将官たちや、冷徹な光を眼鏡に宿した政治家たちが居並んでいる。
三日前。辺境の駐屯地で魔導核の暴走から奇跡的に生還したアリアは、三日間の昏睡を経て、目覚めるや否やこの本部へと連行された。
理由も告げられぬまま、彼女は今、国家の重鎮たちの視線を一身に浴びている。
「顔を上げなさい、アリア・フィオル」
魔導兵部隊総大将、ルイーズ・ハルバートの低く通る声が響いた。
「は……い……」
アリアは弾かれたように顔を上げたが、すぐに泳ぐ視線をどこへ置くべきか迷い、再び俯きそうになる。
「アリア・フィオル。厳正なる協議の結果、貴女を『魔導戦装ヴァルキュリア・フレーム』の専属パイロットに任命することが決定しました」
告げたのは、国防政策局長ヘレナ・スターリング。怜悧な美貌を歪めることもなく、彼女は事務的に続けた。
「貴女に拒否権はありません、アリア・フィオル。これは王命に等しい軍令です」
釘を刺すような冷たい言葉に、アリアは呼吸を忘れた。
そんな彼女を諭すように、ルイーズが一歩前へ出る。
「……アリア。ヴァルキュリア・フレームは、通常の魔導甲冑とは比較にならないエネルギーを必要とする。……君が倒れた後の検査で判明したことだが、君の魔導素保有量は、平均的な兵士の十倍を超えていた」
十倍。それは「優秀」という言葉では片付けられない。人間という枠組みを外れ、一種の「怪物」として認定されたに等しい数値だった。
「その膨大な魔導素こそが、あの暴走を抑え込み、機体を制御させた要因だ。……この意味がわかるか? 君だけが、あの女神の翼を動かせる唯一の鍵なのだ」
「……わかり、ました」
アリアの声は震えていた。拒絶など許されない。自分はもう、ただの新人兵士には戻れないのだと、残酷な現実が彼女を縛り付けた。
――。
数時間後。アリアは手渡された特殊通行証を握りしめ、本部の地下深くにある格納庫へと向かった。
かつてミナと忍び込んだ、あの扉の前に立つ。今日は扉の外から眺める「見学者」ではない。その内側へ招かれた「生贄」のような気分だった。
スイッチを入れると、暗闇の中に眩いばかりの人工光が奔った。
光の渦の中心に、その機体は静かに鎮座していた。
純白の装甲。胸部で不気味に、けれど美しく赤く輝く魔導核。背面に配された翼のような高機動ユニットが、天井からの光を反射して神々しく煌めく。
「私が……英雄……?」
見上げるアリアの瞳に映るのは、栄光ではない。
それは、英雄という名の重い鎖をその身に纏うことへの、底知れない恐怖だった。




