第七話
漆黒の二機は、確信していた。
眼前の白い機体――魔導核を不気味に赤く脈動させ、歴戦の猛者のような動きを見せるその「怪物」が、もはや限界であることを。
「ガルマ!あいつ、何かヤバいよ……今のうちに落とさないと!」
「わかってるぜ、マルセラ!あいつの魔導核を獲るぞ!!」
黒曜三刃隊の二機が、加速装置を唸らせてアリアへと肉薄する。マルセラの魔導剣が空を切り、続けざまにガルマの鋭い刺突がアリアの魔導核を狙う。
アリアは辛うじて回避するが、装甲が削れる鋭い金属音が響いた。
そこへ、カイルの機体が捨て身の突撃で割って入る。
「チッ……!雑魚はすっこんでな!!」
マルセラが盾でカイルを強引に弾き飛ばすと、ガルマが勝ち誇ったようにアリアへ魔導剣を振り上げた。
「そろそろ幕引きだ!王国のバケモン!」
振り下ろされる死の刃。
だが、その瞬間――閃光が戦場を横切り、ガルマの機体の右腕を粉砕した。
「――させるかッ!!」
戦場に響き渡ったのは、雷鳴のような鋭い怒号。
土煙を巻き上げ、全速力で滑り込んできたのは、一機の白い魔導甲冑――灰翼中隊長、レオン・ハルバートの専用機だった。
「レオン!!遅いんだよ、全く……!」
ユリウスの安堵混じりの叫びに、レオンは答えない。即座に二撃目の狙撃を構えるその圧倒的な威圧感に、黒曜三刃隊は即座に悟った。これ以上の戦闘は「全滅」を意味すると。
「……引き際だね。全部隊、撤退するよ!!」
マルセラの静かな号令が響き、黒い影たちは霧が晴れるように戦場から去っていった。それを聞いた敵の残存部隊も、雪崩を打つように撤退を開始する。
戦場に、にわかな静寂が訪れた。
レオンは深追いを禁じ、通信波を切り替える。
「ユリウス、遅くなってすまなかった。セラ班も、よく持ち堪えてくれた」
各員の無事を確認しながら、レオンの機体は、立ち尽くすアリアの機体へと歩み寄った。
先ほどまでの赤黒い輝きは消え、機体からは力なく煙が上がっている。
「アリア・フィオルだったか……無事か?」
レオンが問いかけた、その時だった。
ハッチが重々しく開き、一人の少女が這い出してきた。アリアの顔は幽鬼のように青ざめ、意識はすでに混濁している。
彼女が地面に足を下ろした瞬間、それまで形を保っていた魔導甲冑が、まるで糸の切れた人形のように、凄まじい音を立ててバラバラに崩れ落ちた。
部品の一つ一つが、役目を終えた灰のように積み重なっていく。
「うぅ……」
言葉にならない声を漏らし、アリアは前のめりに倒れ込んだ。
泥にまみれた彼女の小さな体を、レオンの機体が落とす影が、静かに包み込んでいった。




