第六話
アリアの乗る魔導甲冑の魔導核が鮮血の色に染まり、そこから無数の赤い光の筋が、まるで血管のように全身の装甲へと広がっていく。
「な、なに……これ……」
困惑するアリアを余所に、敵機は容赦なく魔導剣を振り下ろす。だが、その一撃が届くよりも早く、アリアの意識は「加速」していた。
(――相手の動きが、見える)
『貴女は私に似ているわ。戦場に出る前の、ちっぽけな私とそっくり……』
赤く染まる視界の端で、女の囁きが聞こえた。
直後、アリアの機体は最小限の機動で斬撃を回避。流れるような動作で魔導銃を突き出し、至近距離で敵の魔導核を射抜いた。
無駄のない、あまりに冷徹な動き。訓練を終えたばかりの新人とは到底思えない「死の舞踏」が、残滓の降り積もる灰色の戦場を支配し始めた。
帝国のエリート、『黒曜三刃隊』のリュカ・ヘイルは、狙撃銃のスコープ越しにその光景を見て息を呑んだ。
先ほどまで素人に毛が生えた程度だった機体が、暴走の兆候を見せた直後から、全く別の何かに変貌している。
「あいつ……マズいぞ」
誰に言うでもなく呟くと、リュカは狙いをその個体に絞った。
呼吸を整え、赤く輝く魔導核へ向けて引き金を引く。だが――。
放たれた青白い閃光を、その機体は背後を見ることさえなく、わずかな傾きだけで回避した。
「マジか……。魔導素を直接、感知してるのか?」
戦慄がリュカを襲う。視覚ではなく、大気の揺らぎそのものを読み取っているかのような動き。
その時だった。
這いつくばった状態のセラの機体が、泥を噛むような執念で銃口を固定していた。
「……あんたを仕留めるのが、私の仕事よ!」
セラの放った一撃が空気を切り裂く。リュカは咄嗟に反応したが、セラの弾丸はわずかに早く彼の機体の頭部を粉砕した。
「くそっ、コアを外した!」
セラが追撃を試みるが、リュカの機体は即座に煙幕を張り、戦域から離脱していった。
一方、ユリウス班は依然として黒曜三刃隊の近接二機に苦戦を強いられている。
「新入りが頑張ってんだ!負けてられねぇぞ!」
部下を鼓舞しつつも、ユリウスの視線はアリアから離れない。
無双を続けているアリアだが、その動きが目に見えて鈍り始めている。強大な出力に、機体が悲鳴を上げているのだ。
「アリア!もういい、離脱しろ!」
ユリウスが魔導通信機に叫ぶ。
『は、はい……っ』
返ってきたのは、消え入りそうな細い声。戦う意思はあるものの、アリアの意識は限界点に達していた。
その一瞬の隙を、黒曜三刃隊の残る二機は見逃さなかった。
ユリウスをすり抜けた二つの影が、獲物を狙う鷹のように、アリアの機体へと一直線に牙を剥いた。




