第五話
鳴り止まない警告音。
アリアの操る機体の魔導核は、今や破裂寸前の鼓動のように、禍々しい赤色に明滅していた。
「こ、これって……暴走……?」
アリアの顔から血の気が引く。コックピット内の計器はすべて異常値を示し、足元からは制御を失った魔導素が火花となって散っている。
死へのカウントダウン。兄を奪ったあの「悪夢」が、今、自分を飲み込もうとしていた。
「アリア!!早く緊急脱出しなさい!!」
魔導通信機越しに響くセラの声は、かつてないほどに荒れていた。冷静沈着だったはずの彼女が、新人に降りかかる厄災を前に、その冷静さを失いかけている。
「セラ!落ち着け!!」
黒曜三刃隊の猛攻を凌ぎながら、通信機を通してユリウスの怒声が飛ぶ。
「セラ班!アリアを援護しろ、脱出路を確保するんだ!」
だが、その命令に応えられる者は誰もいなかった。カイルさえも敵の執拗な包囲網に捕らわれ、アリアを助けに行く余裕などない。さらに、暴走を始めたアリアの機体を「格好の標的」と見た敵機が銃口を向ける。
「アリアから……離れなさいよ!!」
セラは高台から必死に魔導銃を乱射し、アリアを狙う敵を次々と排除していく。だが、その献身が仇となった。
狙撃に没頭するあまり、セラ自身の「死角」が無防備に晒される。
――キィィィィィィンッ!
空気を切り裂く高出力の魔導弾。
黒曜三刃隊の狙撃手、リュカが放った一撃が、セラの機体の左脚を無残に粉砕した。
「しまった……ッ!!」
バランスを崩し、轟音を立てて倒れ伏すセラの機体。すかさずリュカの追撃が、無防備な背中へ向けて放たれる。セラは必死に魔導盾を展開するが、地に伏した状態では、狙撃手の餌食になるのは時間の問題だった。
(……わたしのせいだ。わたしのせいで、セラさんが……)
絶望がアリアの心を塗り潰す。
自分が動けないせいで、セラが死ぬ……。
「なんでよ……!なんで私から、みんな奪っていくの!!」
幼い頃に戦死した両親。自分を養うために兵士になり、事故で消えた兄。
理不尽に奪われ続けた記憶が、アリアの中で熱い泥となって溢れ出した。
「なんで……なんでみんな死んじゃうのよ!!」
アリアは絶叫した。
迫りくる敵機の魔導剣を、盾で力任せに弾き飛ばす。暴走する魔導核から溢れ出した高密度の魔導素が、機体全体を黒ずんだ炎のように包み込んでいく。
「私は……あんたたちを、絶対に許さないから……!!」
その言葉を発した瞬間だった。
五感が、どす黒い「何か」に塗り替えられていく。
血液が凍りつくような冷たさと、魂が焦げるような熱さが、全身を侵食していく感覚。
『――許さなくていいのよ。私が全部、やっつけてあげる』
耳元で、甘く、冷ややかな声が囁いた。
それは女の声だった。それは美しく、そして絶対的な力を持った響き。
その瞬間、魔導核が最後にして最大の爆鳴を上げ、アリアの視界は鮮血のような真紅に染まった。




