序章
荒廃した街並みに、鉄筋コンクリートの残骸が墓標のように立ち並んでいる。
その死角から、三つの影が滑り出した。全長五メートル強。白銀の装甲に刻印された赤色の紋章は、アルヴェリア王国軍が誇る人型魔導兵器――『魔導甲冑』の証だ。
かつて文明を支えた魔導素の残滓が、まるで死の灰のようにしんしんと降り積もる。
その中を、機体中央に埋め込まれた『魔導核』が、命の鼓動のごとき青い光を放ちながら、静かに周囲を警戒し進んでいく。
沈黙を破ったのは、唐突な襲撃だった。
崩落したビルの陰から、漆黒の機体が三機、音もなく躍り出る。ガルド帝国の魔導甲冑だ。金色の紋章が廃墟のわずかな光を反射し、凶々しく輝く。
「敵襲!帝国の魔導甲冑だ!」
白の三機は瞬時に魔導剣を抜刀し、斬りかかる。対する黒の機体も魔導盾を展開。火花が散り、鋼鉄と魔導がぶつかり合う轟音が戦場に吹き荒れた。
「隊長、敵の魔導甲冑と接触!交戦を開始します!」
白い機体のコックピット内、兵士は荒い呼吸のまま魔導通信機へ叫んだ。
「了解した!セラ班を応援に向かわせた。持ちこたえろ!」
ノイズ混じりの通信機から、隊長レオンの声が返る。
その直後だった。
兵士が安堵を覚えるよりも早く、コックピット内に悲鳴のようなアラートが鳴り響く。
「な、なんだ……!?計器が……出力が暴走している!」
視界が真っ赤な警告色に染まる。機体の胸部で青く輝いていたはずの魔導核が、どす黒い赤色に変色し、狂ったように明滅する。それは隣で戦う同僚の機体も同じだった。
「隊長!魔導核が、魔導核が制御できません!」
「どうした、何が起きている!?早く緊急脱出しろ!」
「だめです!敵の追撃が……うあああああッ!」
「くそっ!セラ、まだか!セラ!!」
レオンの悲痛な叫びが通信を叩く。
「全速で向かってる!あと少し、あと少しだけ持ちこたえて!」
現場へと急行するセラの瞳には、遠くの市街地から立ち昇る不吉な赤い光が見えていた。
だが、彼女が戦場へ滑り込んだ瞬間、世界が白く塗りつぶされた。
轟音。
白い機体の一機が、組み合っていた敵機を巻き込み、魔導核の内側から弾けるように爆発したのだ。
「そんな……また……?」
そう呟くセラの声を掻き消すように、連鎖は続く。通信機越しに断末魔を響かせながら、二機目、三機目が次々と爆破四散していく。
「アリア……」
通信機から漏れた、最期の囁き。
それが、爆発音の後に訪れたあまりにも深い静寂に吸い込まれて消えた。
灰翼中隊長、レオン・ハルバート。彼はただ、通信機から伝わる絶望の沈黙を、拳を血が滲むほど握りしめて聞き届けることしかできなかった。




