第三話 「誰もいなくても、歌う理由」
体育館は、静かすぎた。
放課後。
照明は半分だけ点いていて、
広い客席には――誰もいない。
「……これ、本当にライブ?」
思わず呟いた私の声が、
やけに大きく響いた。
「うん。初ライブ」
みおはステージの中央で、
マイクを握りしめていた。
客席ゼロ。
拍手も、歓声も、ない。
SNSで告知した。
ポスターも貼った。
それでも、誰も来なかった。
「やっぱり……無理だったんだ」
胸の奥で、何かが冷えていく。
その時、
体育館の扉が軋む音を立てて開いた。
「……正気?」
入ってきたのは、生徒会副会長・さやだった。
「観客ゼロでライブとか、
心折る練習?」
「それでも、歌う」
みおは即答した。
「一人でも……
誰かに届くかもしれないから」
さやは何も言わず、
後ろの壁にもたれた。
「……勝手にしなさい」
でも、帰らなかった。
「ひより」
みおが、私を見る。
「一緒に、立って」
心臓が跳ねる。
「え、私も?」
「うん。もう“仲間”でしょ」
逃げ道は、なかった。
でも――
不思議と、嫌じゃなかった。
ステージに立つ。
ライトが眩しい。
足が震える。
誰もいない客席が、
逆に怖かった。
「――音、出すよ」
流れ出す、シンプルな伴奏。
みおの声が、体育館に響いた。
力強くて、
それでいて、泣きそうな歌。
私は、ぎこちなく手拍子をする。
それだけなのに、
胸がいっぱいになった。
誰も見ていなくても、
歌は“本物”だった。
その時。
後方の扉が、再び開く。
「……何やってんの?」
現れたのは、
派手な金髪ポニーテールの少女。
「音、廊下まで丸聞こえなんだけど」
「だ、誰?」
私が戸惑うと、
彼女はニヤッと笑った。
「一年、風間りん。
ダンス部」
その隣に、
小柄な少女が、そっと顔を出す。
「……あの、歌……綺麗で」
消え入りそうな声。
「私、白雪ゆの。
作曲、少しだけ……」
みおの歌が、止まった。
「……え?」
沈黙。
次の瞬間。
「入って!!」
みおが、即答した。
「今すぐ! 一緒に!」
「展開早くない!?」
りんが笑う。
「ま、悪くないかも」
ゆのは、少しだけ頷いた。
「……私、
この歌……続きを作りたい」
体育館には、
相変わらず誰もいない。
でも。
ステージの上には、
確かに“仲間”が増えていた。
後方で、さやが小さく呟く。
「……ゼロじゃ、なかったわね」
その声は、
少しだけ、柔らかかった。
――期限まで、あと四日。
物語は、
ここから加速する。




