第二話 「それぞれの“好き”が、すれ違う」
翌朝、教室はいつもと同じざわめきに包まれていた。
――昨日の屋上のことが、まるで夢だったみたいに。
「結城、ちょっと来て」
ホームルームが終わるなり、みおが腕を引いた。
「今日、放課後空いてるでしょ?」
「え、あ……うん」
勢いに押されて頷くと、
彼女は満足そうに笑った。
「決まり! スクールアイドル、始動!」
……始動って。
そんな軽い言葉で、
夢が始まるなら、誰も苦労しない。
放課後。
屋上には、もう一人の少女がいた。
短く切りそろえた髪。
凛とした姿勢。
どこか近寄りがたい空気をまとっている。
「紹介するね。天城さや。生徒会の副会長」
「副会長!?」
私は思わず声を上げた。
さやは腕を組み、冷静な目で私たちを見下ろした。
「……で? スクールアイドル?」
その一言には、
はっきりとした“否定”が混じっていた。
「学園の現状、分かってる?
生徒数は年々減少。
部活動の予算も削減されてる」
「だからこそ、だよ!」
みおが一歩前に出る。
「歌って、踊って、
この学園を――」
「感情論ね」
さやは、ぴしゃりと言い切った。
「現実を見て。
成功例なんて、ほんの一握り」
胸が、ちくりと痛んだ。
昨日、あんなに輝いて見えた夢が、
一気に遠ざかる。
「……私は」
思わず、声が出た。
「正直、よく分からないです」
二人の視線が、私に向く。
「でも……みおの歌、
心に残ってて」
言葉を探しながら、続ける。
「無理だって言われても、
やってみたいって思っちゃった」
一瞬の沈黙。
さやは小さくため息をついた。
「……結城ひより。
あなた、面倒なタイプね」
「えっ」
「中途半端に夢を信じる人ほど、
一番傷つく」
その言葉に、
みおが唇を噛みしめた。
「それでも、やる。
私は、歌わないと……消えちゃうから」
震える声。
でも、逃げなかった。
夕焼けが、屋上を赤く染める。
「……一週間」
さやが、ぽつりと言った。
「一週間で、
“続ける価値”を見せて」
「え?」
「それが出来たら、
生徒会として協力する」
振り返ると、
彼女は少しだけ、微笑んでいた。
「ただし――
本気じゃなかったら、即解散」
扉が閉まる。
残された私たちは、顔を見合わせた。
「……ハードル、高くない?」
私が言うと、
みおは笑った。
「燃えるでしょ?」
その笑顔は、
昨日より、少しだけ強かった。
――こうして、
期限付きの挑戦が始まった。




