第一話「屋上に響いた、ひとつの声」
その歌声は、風に溶けるようで、
でも、胸の奥にまっすぐ届いた。
「……え?」
放課後の校舎。
帰ろうとしていた私は、思わず足を止めた。
屋上の扉の向こうから、
誰かが歌っている。
決して上手すぎるわけじゃない。
でも、必死で、切実で、
“消えたくない”と叫んでいるような声だった。
静かに扉を開ける。
そこにいたのは、
学園でも有名な問題児――星野みお。
長い黒髪を風になびかせ、
誰もいない屋上で、ひとり歌っていた。
「あ……」
視線が合う。
彼女は一瞬、凍りついたあと、
顔を真っ赤にして叫んだ。
「み、見てた!? 聞いてた!? 今の!!」
「……ご、ごめん。でも……」
私は、なぜか目を逸らせなかった。
「すごく、綺麗だった」
その一言で、
彼女の表情が一気に崩れた。
「……ほんとに?」
震える声。
強気な彼女が、
初めて弱さを見せた瞬間だった。
「ねえ、結城」
いつの間にか、名前を呼ばれていた。
「私ね、スクールアイドルになりたいんだ」
廃校目前の、この学園で。
誰も信じていない夢。
「一緒にやらない?」
夕焼けの屋上で、
私は初めて――
心が動く音を聞いた。




