神様が許しても親御さんが許しているとは限らない
声でバレたら大変なので、マンションから離れて人通りが多くなるまではお互い黙って歩いた。涼の顔色も戻ってるし、そろそろ良いかな。
「涼」
「ん、な、なに？」
「やっぱり帰る？」
「えっ、な、なんで？ 荷物も置いてきちゃったし、帰らないよ？」
あんな事をされても帰らないのなら、今後俺が何をしてももう受け入れてもらうしかないな。
それにしても、反応がまだちょっと硬いな。警戒心を持ってくれたのならありがたいが、かと言って、このまま一緒に買い物もしづらいし。ここは色気のない雑談で和ませてみよう。
「そういえば涼は高校どこ行ってるの？」
「えっと、その、晴庭高校」
「ハニワ？」
「ハレニワ。ここから割とすぐだよ。最寄り駅も同じだから来やすかった」
「へぇ。共学？」
「うん。そっちの学校と比べたら多分普通の学校」
「うちと比べたら大体の学校は皆普通だと思うよ」
うちの学校だと喧嘩なんかは日常茶飯事で、学校に警察が来る事もしばしば。
「そうかもね。うちの高校でもたまに小田巻生徒からカツアゲされたって人いるみたいだし。でも成績も態度も悪かった兄貴が唯一入れた学校だから。あたしは何とも言えない」
「なるほど。大変だね」
「うん。でも兄貴はそれを分かってないんだよ。お父さん達が心配する気持ちも分かってないの。お父さん達毎日のように、アイツも悪い事してないかなって言って心配してるのに」
……ん？
「涼、親御さんと一緒に住んでるの？」
「うん。あ、安心して。お父さんローン払い終わったマイホームだから」
「いや別にそこの心配はしてない」
ちょっと待て。お父さんたちはうちの高校が治安悪いって知ってるって事だろ。
俺は良牙の両親にはまだ会ったことない。何なら双子の妹が居た事すら知らなかった。逆に親御さん達も俺の事は詳しく知らないだろう。良牙から話を聞いたりして名前位は知ってたとしてもだ。
そんな俺の所に一人で涼を泊まらせたりするか？
涼もしかして、兄貴の所行ってくるとだけ言って家出てきてたりしてないか？
兄の事も心配してくれる親御さんが、家賃のため娘に男のルームメイトになって来なさいなんていう訳がない。
良牙が彼女の家にいるって知ってるのは涼だけで、実際兄貴の家に居るのは俺だけだが、ご両親は兄貴がいるから変な男がいても大丈夫だろうと思ってる……という可能性の方が高くないか？
えっ、どうなの。大問題じゃないのこれ。
「涼。ご両親には何て言って来た？」
「普通に兄貴の所に行くって」
「心配してない？」
「大丈夫だよ、悪い事してないじゃん。お金を大事にする事は良い事だよ」
「そういう事じゃない」
まぁ涼が来たのは神様パワーの可能性が高いから、そこまで酷い事件には巻き込まれないとは思うけど。気を付けるに越したことはないね。
スーパーにたどり着き、店内を順に歩く。いつもの俺はスーパーに来てもほとんど惣菜コーナーにしか行かないが、今日は端っこから順に歩いていく。勿論、歩くペースはカートを押しながら歩く彼女に合わせて。
「あいびき肉が安くなってる。夕飯ハンバーグとかどうかな」
「俺グリーンピース以外なら何でも食べる」
「じゃあ付け合わせは……ブロッコリーかな。あと男の人ってどんなのが好き？」
俺のじゃなくて男の人ってのがポイント。期待してはいけない。
「大体肉じゃないの」
「肉って言っても種類あるからね。難しいなぁ」
「いや、涼が作ったものってだけで喜ばれると思うんだ」
「啓も？」
「……オフコース」
期待しては、いけない！
「グリーンピース以外なら本当に何でも食べる？」
「うん」
「イナゴの佃煮も？」
「さては涼が食べられないものだな？」
「だって、ほら、ねぇ」
虫全般的に無理って言ってたしね。そりゃそうか。
「俺はばーちゃんが昔作ってたから食べたって感じだけど。別に好物ってほどじゃないから無理に作る事はないよ」
「なら良かった」
気づいてないだろうけど、自分の苦手なもの教えちゃったら逆に脅迫されかねないよ。しないけどさ。
