幼稚園児に心配される
良牙はあまり理解していない様子だった。
「よくわかんないけど、とりあえず涼子呼ぶ? とっとと告ってレッツ子づくり。お前が弟になるのは不安ではあるけど。啓はパシリに出来そうだから認めてあげよう」
「断る」
いくら何でも神様パワーも発動してないのに、そんなぶっ飛んだ展開にはならないと思う。
そして良牙のパシリになる位なら将来ゾウリムシになる道を選んでやる。
涼が帰ってから二週間が立って、外では桜の木から葉っぱの匂いが増えてきた。
相変わらず願い事は悩んでたけど、とりあえず保留にして。夢の中では毎日のように、油とひたすら遊んだ。ボールを投げたり、追いかけまわったり。ただ寝そべってる日もあった。
目を覚ましたら、普通に学校行って、寮に戻ったら家事と勉強をした。今までの俺だったら寮戻って来てからそんな事絶対しないんだけど。あのままだったら、頑張り屋の涼の隣にいられないと思って。 普通の人に比べたら、全然大したことのない努力ではあるんだけどさ。
ある日の事だ。学校の帰り道に、背後から腰を殴られた。
「けーコノヤロー!」
「痛っ、たっくん何するの」
青色スモッグを着て、黄色い帽子をかぶった子供三人。たっくんは俺の腰を殴り続けた。
「何で来ないんだよバカ!」
「え、約束してた?」
「してなくても来いよ」
それは理不尽ってものだよ、たっくん。
みーちゃんが俺達の間に入ってきた。
「あのねー、ふーくんがごめんなさいしたいのに、けーちゃんが来ないから。たっくんも最初は、いつもみたいに遊びに来るだろうから、その時に謝ればって言ってたのに。あんまりにも来ないから」
ふーくんが謝りたいって、お母さんの事だろうか。
ふーくんは俺の服の裾を引っ張った。
「けーちゃん、ママが酷い事言ってごめんね。ママがけーちゃんに意地悪言ったから、けーちゃん公園来なくなっちゃったの?」
謝るならお母さんの方じゃなかろうか。あー、でも素直に謝ってくれる可能性の方が低いかもしれないな。
涼の話を聞いた後でだって、バカの友達もバカな事言ってるって思われているだけかもしれないし。
俺はふーくんの頭を撫でた。
「全然気にしてないっていうか、もはや忘れてた。俺が公園行かなかったのはね、勉強してたから」
またもや幼稚園児三人の表情が固まった。
俺の口から勉強してたなんて言葉が出てくるとは思ってなかったんだろうか。
順番に思った事を口にしていく三人。
「だから拾い食いは止めろって言っただろ!」
「けーちゃん魔法かけられたの?」
「ママが怒ったから?!」
誰一人俺が自分から勉強するとは思わないんだな。俺もそう思ったけどね。
「失礼な。俺は自分のために勉強しているんだよ」
ふーくんは心配そうに問う。
「じゃあ、また遊んでくれる?」
「遊んで怒られなければ。あ、俺が勉強頑張れば怒られなくて済むかな」
「ママには、けーちゃんが悪い人じゃないっていうのはちゃんと言ったよ。そしたらね、何かされたらおまわりさんの所にちゃんと行けば、公園でだけなら遊んでも良いって言われたよ」
信用はされてないんだな。
まぁでも、確かにいくらバカでも警察前の公園で誘拐をする奴は居ないだろうし。たっくんとみーちゃんの親も、子供達と警察を信用して好き勝手遊ばせてるからな。
「けーちゃん、りょーこちゃんも遊んでくれるかな?」
みーちゃんが笑顔で質問をしてきた。
「ん?」
「みちかね、良牙君の事はしょうもないなって思うけど、りょーこちゃんはゼリー作ってくれるし、優しいから好きだよ」
幼稚園児にまでしょうもないと言われる良牙。でもアイツは偏見じゃなくて事実で判断されているからどうしようもない。
「そうだね。もう少ししたらかな」
「もう少しってどれくらい?」
「俺が勉強出来るようになったらかな」
「一年後?」
一年以内は無理だと判断されたか。
「もっと早く出来るように頑張るから」
「どれくらい頑張るの?」
「うーん……どれ位だろうね」
料理とかなら、美味しくなるまで、なんだろうけど。俺の頑張るの結果ってどれ位なんだろう。結果を出さないとダメなんだとすると、曖昧な答えしか出せない。テストで百点取れば良いのか、給料の高い会社に就職すればいいのか。
涼は一体、どうすれば俺の事好きになってくれるのか。っていうか、涼の好みってどんなのよ。知らないじゃん。あれ、もしこれで涼が勉強よりスポーツの出来る男の方が良いって言ったらどうしよう。
分かんないだらけだなぁ。
「とりあえず、いっぱい」
今はこれしか言えない自分は、多分まだまだなんだろう。