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願いは叶ったけど思ってたのと違う

……何で?

 一体何が楽しくて、俺のような何の取り柄もない男のルームメイトになりに来たと言うんだ。俺と一緒に暮らす位なら、ダンゴムシと一緒に暮らした方がまだ有意義だと思う。

 何考えてんだこの子、もうちょっと自分を大事にしなよ。おかしい。絶対何かある。

 あ、分かった。多分この後、高そうな壺が出てくるパターンだ。

 まぁ良牙の妹だしな。可愛い顔してても悪い事するよな。これはもう追い返すしかないけど、うまく追い返せるだろうか。

 とりあえず話を聞いてみよう。


「それで、どうして俺のルームメイトになろうと?」


 我ながら良い質問だ。彼女は真剣な顔になった。良牙と同じ顔だが、良牙ならば絶対にしない表情だ。


「ここの寮費、いくらか知ってる?」


 どうしよう、すごい真剣な顔して突拍子もない質問してきた。


「すごく高いって事は知ってる」


 詳しくは聞けてないが、高いという事はじーちゃんがすっごい言ってた。

 だが俺はどうしてもこの学校でやりたい事があって。

 金かかってもやりたい事やれってばーちゃんが言ってくれたから、今俺はここに居るわけだ。

 彼女は真剣な顔つきのまま話し始めた。


「とんでもなく高いの。学生寮でワンルーム二人暮らしなのに。しかも前払いで、今月分もう払ってあるらしいんだ」

「そうらしいね」

「でも兄貴は彼女の家に行ったらしいんだ」

「知ってる」

「しかも五日間もいるらしいんだ」

「もう帰ってこなくても俺困らないんだけど」

「それはダメ。家賃が勿体ない」

「うーん、まぁそうかも」

「兄貴が寮にいない日もお金はかかっている。だから代わりにあたしが来た。そうすれば勿体なくないでしょ?」

「おかしいと思うのは俺だけなの?」


 払ったお金が勿体ないという気持ちは分かる。だが兄の代わりに妹が赤の他人である男と一緒に住むってどうなんだ。

 ラノベや漫画の世界でも同棲ならいっぱいありそうだけど、家賃を理由ってのはどうなんだろうか。現実なら尚更。

 彼女は両手をパンッと叩いて。深々と頭を下げた。


「お願いっ、一応事情はあるの。何ならこのまま玄関にでも良いから居させて! 人と思わなくても良いから、何ならもうペットだと思ってくれて良いから!」

「……ペット」

「そう、ペット!」


 ふと、今朝見た夢を思い出した。もしあれが本当の出来事なのだとしたら。

 おい油、設定が雑過ぎるぞ。



 一応事情はあると聞いてしまったので、部屋の中には招いてしまった。この汚い部屋に。

 事情は分からないけど、親と喧嘩してるとかストーカーに追われてるとかなら話を聞くくらいは出来る。

 もし事情があるというのも嘘で、この後高い壺コースだったとしても。この汚い部屋に住んでいる男が金を持っている可能性は低いと思わせられるかもしれない。実際金無いし。

 ナイフとか出されたらもう無理だから、潔く警察を呼ぼう。

 でも女の子相手だしな。せめてゴミを部屋の端に寄せてから招くべきだったかな。手遅れだけど。

 彼女はトイレの前に落ちていたシャツを拾い上げた。


「いつ洗ったの、これ」


 眉を曲げている涼子ちゃん。正直俺も臭いと思ってました。でもアイツの世話とかしたくないから、近寄らないようにしてました。


「分かんないけど、それは良牙のだから。あんまり素手で触らない方が良いよ。何がついてるかも分かんないし」

「あぁ、兄貴は昔から土とかオナモミとか変なものくっつけてきてたから大丈夫だよ。慣れてる。バイキンは洗って倒す」


 いや土とかなら良いけどさ、ものによっては体液的な何かがついてるかもしれないし。

 彼女は荷物を部屋の入口に置き、腕まくりをする。


「とりあえず、住まわせてもらう分家事はやるよ」

「それはありがたいんだけど、その前に。本気で住むの?」

「住むよ」

「あのね、引かれるの覚悟で言うけど。俺も一応男な訳で。一緒に暮らしてたら我慢出来なくなっちゃうかもしれないんだよ」


 正直、見た目は相当可愛い。性格がアレな良牙とほぼ同じ顔っていうのがとても哀れな位。

 そりゃ同棲を願いはしたが、こんな理由でとも思わなかったし。現実的に考えて、帰ってもらう方が良いだろう。勿体ないけど。

 

「大丈夫。兄貴に色々教わってるから」


 彼女はドヤ顔で答えた。


「何を?」

「あなたの、啓の嫌いなもの。啓が万が一にあたしを襲ってきたら、その日の晩御飯は強制的にグリンピースご飯だ!」


 ドヤ顔した割に大した事言ってないな。っていうかグリーンピース食べたら何しても良いんですかね。だったら食うわ。

 あとその前に、俺のご飯作ってくれる気なんですかね。


「えっと、涼子ちゃん?」

「涼でいいよ。友達皆そう呼んでる。あ、そういえばあたしも啓って呼んじゃったけど良かったかな。兄貴がそう呼んでるからさぁ」

「うん、じゃあ、涼。俺の事も啓でいい」


 何と呼ばれても構わないんだけど、あんまり女の子から下の名前で呼ばれる事ないし、呼ぶ事もないから。こそばゆい感じがする。


「なら良かった。さて、まず掃除するから手伝ってくれると嬉しいんだけど」

「あぁうん……いや、その気持ちは嬉しいんだけど、部屋は俺やるから。やっぱり帰ってくれると助かる。せめて事情があるなら、それを話してほしい」

「何で」

「何でも」

「グリンピースご飯にするよ!」

「もういっそしてくれていいから!」

「ど、どうして?」


 君のためを思ってだと言うのに!

 どうしてかを話さないと伝わらないのか……。


「俺的には、どうしてそこまでグリンピースを信用出来るのって感じ」

「分かった。作れば恐れをなして変なことしないって事だね」

「そんな事で恐れるような子供でもないんだ俺」

「分かんないじゃん。いいからご飯の前に掃除しようよ。こんな汚い中で食べるご飯マズいよ」

「いいから帰ってぇ……」

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