オムライスの完成です
「そりゃ涼やばーちゃん並みの料理を作れと言われたら無理だけど。おいしーのは作れるよ」
涼の表情はまだ不安げだ。
もしかしておままごとでしか料理経験のない子供が、本物のご飯を作ると言うのと同じレベルで信頼がないのだろうか。
「そ、そっか。分かった。楽しみにしてる。でも怪我はしないでね。包丁は猫の手で切るものを抑えるんだよ。熱くなった鍋やフライパンは触っちゃダメだからね」
「涼は俺をいくつだと思ってるんだ」
少なくとも同い年だとは思われてない感じがあるよね。
「啓、あたし本当に卵かけごはんで良いんだよ?」
「卵かけごはんもおいしいけどさ、オムライスもおいしいじゃん?」
「じゃあ作り方知ってる?」
「知らないものは作れないって」
「焦げても良いけど、怪我だけはしないでね」
「大丈夫だって」
「包丁は本当に気を付けるんだよ!」
「涼。姉ちゃんの持ってた少女漫画で、騒いでた女の子にチューして口ふさぐっていう話を昔読んだことがあるんだけど。やって良い?」
ピタリと黙り込んだ涼。良かった。深く考えずに発言しちゃったけど、チューして黙らせるだなんて。下手したら通報される。もっと下手すりゃ病院沙汰、あるいは死刑だ。現実じゃそんなメルヘンあり得ないよ。
でも人助けるのは顔面関係ないからね。お年寄りが困っていれば助けてあげれば良いし、子供が泣いてれば笑わせてあげれば良いよ。イケメンの方が得る評価は高いけどね。
その日は二人とも家の中で過ごした。何をする訳でもなく、ただお喋りをして過ごした。油の話をしたり、学校での話をしたり。久々にこんなに喋ったなってくらい。
外が暗くなって、俺が台所の前に立ったところでようやく涼が黙り始めた。
めちゃくちゃ見られている。
そんなに疑われているのか。少し悲しいが、ここは結果で示そう。
慣れないながらも、俺はオムライスを作り始めた。
「出来たよ」
「うん、良かった。本当に作ってた」
ずっと見てたもんね、涼。
俺が女の子に見つめられるなんて人生でそうあるとは思えないから。もしかしたらこれが最初で最後かもしれない。
「では仕上げにケチャップをかけてあげよう」
「ありがと。どんな絵を描くかはシェフに任せるわ」
「絵っ」
普通に波線状にかける気でいたよね。
絵ってなんだ、ハートマークみたいなのでいいのかな。いやセクハラで訴えられ兼ねない。
少し考えてから、俺はケチャップで字を書いた。
感想を述べる涼。
「珍しいね。オムライスにオムライスって書くなんて」
「だってオムライスだから」
我ながら何か違うような気もした。
「じゃあお返しに何か書いてあげよう。何が良い? 絵じゃなくて字でもいいよ」
涼は俺の手からケチャップを取る。
そうだなぁ。ハートマークでも描いてほしい所だが、やっぱりセクハラで訴えられ兼ねない。これは未来の嫁にでも描いてもらおう。嫁が来ればだけど。
「何だろう。大変よくできました?」
「かけすぎにならないかな」
「そうかな。じゃあどうしよう」
「よし。ちょっと任せてごらん」
そう言って、涼はお絵かきを始める。描かれたものに、俺は目を丸くした。
「お花が咲いた」
「花丸代わりって事で」
「はは、ありがと」
あ、どうせならメイドさんのようにかけて貰えば良かった。おいしくなーれって。
でも女の子にケチャップをかけて貰ったって事実があるだけ幸せか。俺が女の子だったら、自分でかけろって言ってケチャップ放り投げてもいいくらいだ。そういや俺涼にメイドさんみたいな事しかさせてないな。どうせだったらメイド服も来てほしい。絶対似合う。
というよりさ。ご飯作って、掃除して、洗濯して。メイドって言うか、家政婦って言うか、もはや嫁って言うか。
あぁ、なしなし。悲しくなるから、考えるの止めよ。




