盆栽はいいぞ
そのまさかだった。
「うん、分かった。じゃあまたね」
そう挨拶して電話を切る。画面には、二十七分という通話時間が表示されていた。思った以上に長話をしてしまった。
ばーちゃんはなんと五百万が当たったらしい。結果が出るの早すぎると思うんだけど、それも神様パワーかな。俺にも今度お小遣いをやるから、都合が良い時帰ってこいという電話。ばーちゃんが嬉しそうでなによりだ。
にしても神様パワーは偉大だなぁ。これなら本当に彼女欲しいですって願いも叶えてもらえそう。むしろハーレムでも大丈夫そうだけど、涼そういうの好きじゃなさそうだしなぁ。
……何で涼基準で考えてるんだ。まぁ可愛いし、好きだけど。まだ会ったばっかだし。
今はあまり考えないようにして、リビングに戻る。
「ん、終わった? 温め直すよ」
ちょうど涼が食べ終えてしまった所のようだ。皿を片付けている。そして机の上に残った俺のご飯にはラップがされていた。
「いいよ、そのままで。あれじゃん、光熱費の無駄じゃん」
「確かにそうだけど、ご飯はあったかい方が美味しいでしょ」
「まぁね。んじゃ、お言葉に甘えますか」
本当に冷めたご飯でも大丈夫なんだけど、料理人が一番美味しいと思う方法で出された方が互いに嬉しいだろうし。
「ところで啓、さっきの着信音何」
「あぁあれ、良牙に気持ち悪い改造をされた。電話だろうとメールだろうと同じ音が鳴るんだ。実にややこしい。しかも奴に可愛く、けーちゃんなんて呼ばれてどこの男が喜ぶのかね。女の人でも喜ばないかもしれない」
「うん。あたしも喜ばない。でも何で変えないの」
「俺こういう設定苦手で、よく分かんなくてさ。あ、涼出来る?」
「多分。ちょっと貸してくれれば」
「じゃあお願い」
携帯を預け、その間に朝ごはんを食べる。涼がポチポチとボタンを押す姿がおかずになる。美味しいなぁ。
「兄貴の声のかわりに違う音に出来るけど。どんなのがいい?」
「奴の声でなければ何でも。ややこしいけど、あの変なセリフのでもいいよ」
「そう?」
まぁあれは良牙の録音した音だから、同じセリフのなんてあるはずないけど。
「けーちゃん、電話だよぉ。あ、メールかな」
目の前で可愛い声が同じセリフを発した。危うく味噌汁を吹き出す、なんて漫画みたいな表現をする所だった。平然とした顔で再びボタンを押した涼に、さすがに声をかけざるをえない。
「涼、今のは?」
「あ、やっぱり嫌だ?」
「嫌じゃないけど、まさかやってくれるとは思ってなくてですね」
「でもやっぱりややこしいよね。かえとく」
「あぁいいよ、勿体ないし、何だかんだ慣れてるから。それでいい」
「そ? じゃあ保存しちゃう」
涼は再び携帯操作に戻る。まだ会ったばっかだけど、やっぱり可愛いな。神様への三つ目のお願い、涼と付き合えますようににしちゃおうか。
いやダメだ。涼が可哀そうだ。
急ぎつつも味わいながら箸をすすめ、完食。
「ごちそうさまでした」
皿を片し、盆栽にも水をやる。盆栽は良いよ。古くから伝わる小さな自然。俺の心もキレイにしておくれ。
元々じーちゃんの趣味で、時々世話を任された事もあって育て始めた訳だが。今では俺のほうが凝っている。今育てているのはトキワシノブ。以前良牙に雑草と間違われて捨てられかけた可哀そうな子。俺が絶対守るからな。
さて、愛でるのはこれ位で大丈夫だろう。この後、涼から布団と洗濯物干しを命じられたんだ。
俺はふと、ある事に気づいた。いつの間にか涼が回してくれた洗濯物の入った洗濯カゴを見つめながら涼に問う。
「涼の下着が無いんだが」
そう呟くと、涼が窓から顔だけを覗かせて答えた。
「……洗ってないもん」
「毎日同じの着てるの?」
「それはない。昨日の着てたのは隠した。後で家に持って帰ってから洗う。っていうか女の子になんて質問してるの。普通に男の部屋で干そうとは思わないってだけだよ」
いや普通はこんな所来ないんだって。
「それはごめんだけど。あっ、俺パンツ泥棒したりしないよ」
「泥棒を疑ってはないけど。まず見られたくないと言うか、見せられるようなものでもないし」
涼は恥ずかしがっている。可愛いけれど、納得いかない。俺はすでに干した洗濯物を見つめる。
「でも涼は俺のパンツ洗いましたね?」
「いやあたしは兄貴やお父さんの洗うので慣れてるから」
「俺姉ちゃんいるから。あとばーちゃんのパンツも見たことあるよ。慣れてるよ」
ばーちゃんのパンツと年頃の娘のパンツを一緒にするでないって話だが。
「いっ、いいの! 恥ずかしいだけだから!」
涼の恥ずかし基準が分からない。可愛いけど。
あまり掘り下げるのも悪いから、俺は静かに洗濯干しを再開。
「あぁ、啓!」
「何、やっぱり俺のパンツ干すのはおかしいって気づいた?」
「そんなのおかしくない。それより大変だよ、すっかり忘れてたよ」
「そんなので済ませられる話じゃないと思う。けどいいや、何忘れてたの」
「お弁当箱だよ」




