二つ目の願い事をする
「そうだな。今回はお金にしてしまおうか。と言っても俺が今住んでる所は、めちゃくちゃ治安が悪い。から、俺がお金を手にしても泥棒に入られる危険性が高いんだ。という事で、金持ちになるのは俺じゃない。ばーちゃんだ。ばーちゃんに宝くじ当てさせてやってくれ。向こうは治安悪くないし、兄ちゃん達と住んでるから最悪泥棒入られても何とかなるだろ」
『兄ちゃん達柔道強いもんね。ところで前から気になってたんだけどさ。ご主人何であの治安悪い学校入ったの?』
「県内じゃこの学校にしかなかったんだよ、盆栽部」
これが俺のどうしてもこの学校でやりたかった事、だ。それだけ? って言われる事が多いし、じーちゃんや兄ちゃん達からはすごい反対された。
ばーちゃんが味方してくれたおかげだし、宝くじはその恩返しって事で。勿論将来はもっとすごい恩返しもしたい。
『相変わらず好きだね、盆栽』
「他県でも良かったんだけど、遠いとばーちゃん達に何かあった時困るから」
『相変わらず好きだね、ばーちゃん』
「おう。この間電話したけど、ばーちゃんも皆も元気だぞ」
『それは良かった。本当は皆とも話したいなぁ』
「悪いけどもうしばらく、そっちには行かないと思う」
『分かってるよ。むしろしばらく来なくていいよ』
「だろうな。ところで油、この後起きた俺の隣に涼が寝てたらどうすれば良いと思う?」
『交尾でいいんじゃない、と言いたい所だけど。それは涼ちゃん可哀そうだしね。良牙君の悪行でも思い出せば?』
「いいアイディアだな」
俺も油も、向かい合って笑っていた。
「啓、そろそろ起きて」
ベットの脇に膝立ちし、俺の布団を剥ごうとする涼。俺は体を寝かせたまま涼の顔を見た。
そこにいるという事は、隣には寝てなかったという事だろう。一緒に寝てたら、多分ベッドの上に座った状態で布団を剥ぐよな。
色々と想像してしまって、少し照れる。
「おはよぅ……ございます」
「おはよ。っていうか何で敬語なの」
「いやほら。昨日の今日だからさ。あのまま上で寝ちゃった感じ?」
「んん、まぁ。ちょっと片付けてからだけどね。今日は天気良いし、布団干すよ。啓のも兄貴のも」
「分かった。手伝う。というかあんな悪魔の巣で寝かせてごめん。やっぱり俺が上で寝るべきだったか」
「そんな気にしなくていいよ。その、大丈夫だから」
涼は拗ねた顔……あ、違うっぽい。これ照れてる顔か。
あの悪魔の巣で寝たらそれはそれで気が狂って襲いかねなかったかもしれないが。というか割と今もだけど。
あんまり考えないようにしながら、俺は無理やり体を起こす。うわ、昨日の疲れがまだ残ってる感じだな。ダルい。俺だけだったら二度寝したが、涼だけ働かせるのも悪いし、今日はちびっこ達が待ってるし。無理やりにでも起きよう。
携帯の時計を見る。現在九時。休みの日にこんなに早く起きたのは何年振りだろう。九時でも遅い方かもしれないけど。
ところで。
「良牙は……」
「兄貴? 帰って来てないけど」
あの野郎!
「それより朝ごはんも作ったから。食べちゃって」
涼は俺を折りたたみの机の前に連れて行く。
休みの日に朝ごはんを食べるのも何年振りかな。
白米、豆腐の味噌汁。焼いた鮭に、キュウリの酢の物。まさに朝ごはんって感じがする。
机の上に並べられたそれらは、俺と涼の二人分。
「もう作っちゃったけどさ、朝はパンの方が良かったーとかある?」
「作って貰ったのに、そんな文句言わない」
「じゃあどっちが好きよ」
「米が好きです」
「なら良かった」
和やかな朝の食卓。ありがとう油、俺今とても幸せ。
『けーちゃんっ、電話だよぉ。あっ、メールかなぁ』
男の低い声で鳴った携帯に、幸せな時間が殺された。涼も怪訝な顔をしている。
「何今の。兄貴の声だけど」
「……俺の携帯。ちょっと待って」
低い声で電話なのかメールなのか分からないセリフを延々と言い続ける俺の携帯。
あ、ばーちゃんからの電話だ。
「涼、ちょっとばーちゃんから電話来たから。食べてて」
「ん。分かった」
俺は玄関の方へ行って、電話の通話ボタンを押す。電話をする時は周りに気を遣えとばーちゃんから教わった。
この電話、まさか宝くじが当たったって電話じゃないだろうな。




