むしろ頑張ったと思う
拷問は続く。俺は今一人、風呂場にいた。
涼が「部屋の主より先に風呂に入る訳にはいかない」とか古めかしい事を言ってたからだ。まだ良牙帰って来ないし、風呂場まで来てしまったものの若干後悔。
だってもう夜ですよ。良牙が帰って来ないと涼はきっとこのまま泊まるぞ。
風呂入った男女に同じ部屋で寝ろなんて、その後やる事は一つだろうが。
でもこれで我慢しないと最悪逮捕だし。俺は良牙と同類って事になる。俺は見境ないなんて事ないが、他の人から見たらきっと同じだ。
部屋と同様、俺も綺麗にして。深い深呼吸をした。
いざ!
「涼?」
潔く戻ったのにも関わらず、そこに涼の姿は見当たらない。部屋のどこかで、ガタッて音がした。トイレかな。
俺は二段ベッドの下段に座った。トイレから早く出てくれば良いけど。
あれ、そういや涼ってどこで寝る気だったんだろ? お客様用の布団なんてないし、ベッドもここしか……。
俺は思い出した。というか記憶から抹消していた。
良牙のテリトリーである悪魔の巣みたいな場所、二段ベッド上段の事を。
部屋に散りばめられていたエロ関連は、全部涼の手が届きそうにない高い位置にある棚に押し込めた。
だがベッド上段は完全ノータッチ!
恐る恐る二段ベッド上段へ続く階段に足をかけた。
まぁ何という事でしょう。涼の周りに、エロ関連グッズが溢れているではありませんか。
「けっ、啓。いや、その、これ、ね?」
顔をエロ本で隠す涼。そんなので隠さないで頂きたい。
しかもよりによって表紙が際どい奴!
「その、何で涼は、そんな所に?」
言いたい事は色々あるが、とりあえず平常心を見せつけたくての質問をしてみた。涼は俺に際どい表紙の本を見せつけながら話す。
「それはその、いつも兄貴が寝る場所で寝ようと思って、えっと……これ兄貴の?」
「そうだけど、俺は読んだ事無いけど、涼が嫌だって言うなら家に無い方が良いな、捨ててこようか」
正直、俺は読んだ事ないっていうのは嘘。
「そっか、いや、実家にも兄貴のこんなのいっぱいあるし。あぁでも中身見た事はないよ。その、嫌って言うか、やっぱり驚くって言うか反応に困るって言うか。その、まだ早いんじゃないかなーみたいな?」
もうテンパっているのが分かる。これはようやく男の元に泊まる危険性に気づいてくれたのだろうか。本当はここで帰ってもらう方が良いんだろうけど、夜遅くなっちゃったし、今一人で外に出すのは危険な気がする。せめて駅まで送るべきなんだろうけど。
「やっぱ帰る?」
「えっ、や、やだ!」
断ったのはお金のためではなくテンパりすぎたせい、だと思いたい!
とりあえず、このままの空気感は非常によくない。
でも帰ってくれないのなら……俺は……俺は……。
「じゃあ寝ます! 良牙帰ってきたら起こして!」
俺は階段を下りて、二段ベッド下段に潜り込む。頭から布団をかぶった。少し間が空いてから、返答が聞こえた。
「……あ、あたしお風呂入るよ!」
「行ってらっしゃい!」
バタバタと動く音が聞こえた。そういえば今の内にベッド上段片付けてあげた方が良いのかな。むしろ俺がそっちで寝るべきか。
いや、本当にこのまま寝てしまおう。下手に動くとエロ関連に感化されて涼に手を出しかねない。
ただ可能性は無いと思うけど、万が一あのベッドに寝るのを躊躇った涼が俺のベッドに入ってきたら。
その後は、もう知らない!
『ご主人、最初の願いはどうだった?』
気づいたら、またあの花畑にいた。目の前には油がいて、嬉しそうに尻尾を振っている。
「良かったけど、思ってたのと違った。拷問に近い。でもすっげぇ幸せ」
『そっか』
「というかやっぱり神様パワーだったんだな」
『まぁね。ご主人の神様アピールもちゃんと伝わったよ』
「それは恥ずかしいな」
この状況から察するに、これもまた夢の中みたいなもんなんだろう。
つまり俺はあのまま本当に寝たって事だ。現実なんてそんなもんだよね。むしろ頑張った方だと思う。
『それでご主人、二つ目のお願いはどうするよ』
「こんなにも幸せなのに、まだ願いを叶えてもらえるというのか。まさか後々不幸になったりしないだろうな」
『うーん。その内、良牙君が帰ってくるよ』
「それは不幸だ」
『じゃあどうする? 二番目のお願い使って良牙君を消す?』
「うーん。アイツ好きじゃないけど消えて欲しいとまでは思ってないな。帰ってこなくても困らないとは思うけど」
『そっか』
「何でもアリなら本当に彼女出来ますようにでも良いかな。あとまだ大金持ちも捨てがたいし」
『ゆっくり悩むといいよ。別に制限時間とかないから』
「へぇ。神様寛大じゃん」
『でしょ。じゃあ、どうする?』




