死んだ油と再会する
あまりの景色の良さに一瞬、死んだのかと思った。
気がついたら、花畑の中に立っていた。
花に詳しい訳じゃないから、何の花かって言われると困るんだけど。チューリップじゃない事は分かる。幼稚園児に花を描かせたら八割が書きそうなデザインのあの花。真ん中が黄色で、花びらが五枚位ついてるやつ。花びらの色はピンクだったり、白だったり。
まぁそんな事はどうだっていい。
問題は、何で俺がそんな所にいるのかって事だ。確か今日は普通に学校行って、寮に帰って、普通にベッドで寝たはず。
周囲を見渡すも、花以外は青い空と白い雲しか見えない。
俺の性格上、自分から好んで景色の良い場所に行くなんてないと思うんだけど。何でこんな所に居るんだっけ。
『ごしゅじーん、ご主人やーい』
どこからかキーの高い声が聞こえてきた。左右を交互に見たが、人の姿は見えない。
というかご主人って何だ。
『下だって、ご主人』
下?
俺は足元を見た。
「……油?」
『そだよ』
三年前まで飼ってた犬が、俺の足元で尻尾を振って座っている。子供の頃に拾ってから、老衰で死ぬまでずっと一緒だった茶色い柴犬の雄。なんか喋ってるけど、間違いなく本物だ。
この犬の名前は油。
拾った当時かなりやせ細っていたため「太るように」と、良く思うべきなのか悪く思うべきなのか分からない微妙な理由で俺が付けてしまった名前。
そもそも太らせたいのであれば、他にも太りそうなものは色々あるだろうに。何故油を選んでしまったのだろう?
その理由はもう覚えてないが、今目の前にいる油は健康体の時そのものの姿。死んだ犬に対して言うのもおかしいかもしれないけれど。
「元気そうだな、良い事だ」
思わず口にしていた。
『うん、オレ元気だよ』
立ち上がった油は四足歩行で俺の足元をグルグルと回る。目の前で動く懐かしいペットの姿に、思わず笑みをこぼす。
「そっか、良かった。でもお前がいるって事は……あれ、もしかして俺本当に死んだ?」
『死んでないよ。安心して』
「でもお前喋ってるし」
『これねー、神様の力』
「どういう事よ」
その場にしゃがみ込んだ俺の前に、油は立ち止まって言った。
『あのね、オレ今天国で死んだ動物を誘導する仕事してるの。で、真面目にやって偉いねって、神様から成績優秀賞貰ったのね』
「マジか。すげーな油」
『まぁね。で、今のオレがいるのは生前のご主人があっての事でしょうってね、特典が貰えたの』
「あ、だから喋れるんだ。話せて嬉しいぞ」
『んーと、オレも話せて嬉しいよご主人。でも喋れるようになったのは説明のためであって、これは特典とはまた違うんだよね。もっと豪華特典があるよ』
「お前ともう一回会えただけで豪華特典みたいなもんなんだけど、これ以上があるというのか。流石だな神様」
『神様は偉大だよ。でもね、見えてないだけで、オレ仕事休みの時はいつもご主人の隣にいるよ?』
「……ごめん。気づかなかった」
油の首回りを、思いっきり撫でまわす。もはや忘れていた、フサフサした毛の感触。久々に触れて、思わず泣きそうになった。
『気づかないのは無理ないよ。ご主人霊感ないしね。それより話の続きなんだけど。ご主人、願い事ない?』
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