【1】2.貧乏神ならぬ貧乏座
「確かに君の言う通り、全員を集めてもう一度封印した方が絶対に良い。彼は人間にも危害を加えかねないからね。だけど…」
「だけど?」
「一応指示を仰ごうと思う。そのためにもやっぱり一度会いに行こう。」
「会いに行くって、誰にですか?」
「私達12人の中で1番偉い人。」
「何座の方なんですか?」
「魚座。ピスケス様だよ。魚座は全ての星座を体験していると言われるぐらい、神聖で、大事な存在なの。」
全ての星座を……?神と呼ばれる星座たちを全て体験しているなんて、相当すごいに違いない。
「どこにいるとか分かるんですか?」
「大体ね。あの人はオーラがすごいから。」
記憶がない私にはわからないが、スコルは何かが視えているらしい。
「じゃあそこまで行って、指示を聞きましょう。」
「うん……。」
何故かスコルがもじもじしだす。
「どうしたんですか?」
「その……あの……ここ、妾の座じゃなくて………だから…その……」
「もじもじしないで言って下さい。」
「無一文なの。お金ない……」
「え」
「隣の座まで行く馬車代がないし、ここの宿代も後で払うって言っちゃったんだよね…。」
「え」
「てことで、まずお金を集めよう。」
いやいやいや。貧乏神ならぬ貧乏座ですか私達。
「ど…どうやって集めるんですか?」
「街に出て考える。」
宿を出てみるが、人影が少ない。本当は栄えている街のはずが、閑散としているようだ。まだ普通の生活が営まれていた痕跡が残っている。本当に仕事なんて見つかるのかな…と思っていると、スコルが
「こっち来て」
と手を引っ張った。
「仕事あったんですか?」
「こっちにある気がする。」
「どっから来る自信なんですか?」
「……勘」
と話をしながらもずんずん進んでいく。すると、閑散としている街に1人の人影が。どうやら避難を誘導している兵士のようだ。気づくなりこっち来て、
「あっ、もしかして逃げ遅れた方ですか?今ここは月のしもべが接近していて危ないので避難を……」
「いいや、妾達は逃げ遅れじゃない。助けに来たんだ。」
「助け…?」
兵士は一瞬きょとんとしていたが、はっ、と気づいて目を大きく開き、
「ああ、兵士の方ですか。あいにく今星座様が不在で『星の欠片』が使えないんです。とりあえず今は逃げてください。」
残念そうに言う兵士。よく見ると疲労が顔にでている。そんなこと気にせずスコルは続ける。
「妾達は星座だ。蠍座、スコルピウスと言えば分かるか?一応紋章も見せよう。」
と言ってポケットから大きな紫色の蠍がついているペンダントを取り出す。兵士は目を大きく見開き、敬礼すると同時に、
「失礼致しました!これまでの私の無礼をお許しください。それで、蠍座様が何の御用で?聞いてもよろしいですか。」
「隣座まで行くのに馬車を使いたい。ついでに金も少しあると嬉しい。宿屋に払っておいてくれない?」
「わかりました!すぐご用意致します!」
と言って兵士は去っていった。
「そういえば、星の欠片って何なんですか?」
気になっていたことを聞く。
「月を封印した後も彼のしもべたちは封印できなかった。流石に妾達だけでは対応することができなかったから、人間に星座の力を与え、戦ってもらうことにしたの。力を結晶化したものが星の欠片。でも今はどの星座も弱ってるんだね。力を回収してる。」
アテができてほくほくしながらスコルは話す。それを苦笑いで感じ取りながら
「……だから星の欠片がないんですね。」
と返答。
「準備できました!」
兵士が帰って来た。
「すぐ出発できます!」
「行くよ、ジェミニ。」
「はい!」