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エピローグ4

 それから校内で暇を潰したボクは講堂に入った。活動を終えたウィザードギルドの人たちに紛れて素知らぬ顔を決め込んでみたけど、たくさんの人数を抱えているから咎められることはなかった。

 そもそもエレノア会長の許可をもらってるし。


「本日の活動もお疲れさまでした。これより皆さんに大切なお話があります」


 いつにもない切り出し方に講堂内がざわめく。少し間を置いてから、エレノア会長は静かに語り始めた。


「このウィザードギルド内にて、新たに剣術を取り入れたセクションを立ち上げることになりました。詳細については…………レティシアから」


 エレノア会長に促されたレティシアが登壇した。

 ウィザードギルドには似つかわしくない剣術なんて言葉が出てきたので、さらに騒がしくなっていく。


「私はレティシア。騎士の家系であり故郷では剣術を嗜んでいたが、今はこうしてマジェニア学園、ウィザードギルドでは魔法を学んでいる。まだまだ未熟であるものの充実した日々を送っている」


 喧騒に混じってレティシア個人に対する謗言が聞こえてきた。魔法が使えないだけでもギルド内カーストの底辺なのに、魔法至上主義の思想のせいで剣術を下に見ているからだ。


「一意専心、切磋琢磨するのは至極当然のこと。しかし魔法と剣術の捉え方が極端すぎるのではないだろうか。私がここにいる理由は、剣術も大事だが魔法への理解も必要だと考えているからだ」


 レティシアの発言はごもっともだ。エスカレア特別区に蔓延したヒエラルキーにはうんざりすることもある。クリス先生、聞いてる?


「ウィザードギルドに入ってまで剣術なんて意味がないだろう」


 誰かひとりが声を上げると、続々と批判が飛び始めた。


「魔法を極めるのが先じゃないか」


「我々がすることじゃない」


「剣術なんて野蛮でしょ」


「連中なんて身体を張るしかできないんだ」


「大人しく魔法に従うしかない存在なのよ」


「やりたいならサークルでも好き勝手に立ち上げるんだな」


 言葉の端々に、誇りや自尊心を超えた驕りと傲慢さがにじみ出ている。


「ではこの中に、若くして魔法を極めたという者はいるだろうか。己が一人前だと胸を張れる者はいるだろうか。知識や能力の差はあれど、極めんとする想いは同じであろう」


 それでも謗言、暴言は止まらない。ここにカイザーがいたら怒り狂って暴れてるはず。

 ボクが立ち会う意味って、何?


「駄目なのだ。どちらを極める、諦めるという両極端な話ではないのだ。志半ばであっても理解するだけでよいと思っている。中途半端と罵られようが、互いに歩み寄って手を取り合うことに意味がある」


 批判の矛先はエレノア会長にまで及び始めた。生徒会長としては有望だとしてもウィザードとしては低級だとか、狂った思想を持ち込むなとか、聞くに堪えない。


「私もアクアトリノの騎士の家系、同じく道半ばの半人前です」


 それでもエレノア会長がしゃべりだすと即座に静寂に変わるあたり、生徒会長として認められているカリスマ性は健在。


「この案は新しくギルドやサークルを立ち上げるものではありません。あくまでウィザードギルドでやることに意味を成すのです。この発想がナイトギルドから出るでしょうか。私たちウィザードギルドから手を差し伸べてあげるからこそなのです」


 うん?

 無表情で放つ上から目線で高圧的な言い回しがわざとらしい。

 しかしみんなの反応を見ると明らかだ。プライドの高いウィザードギルドの面目を保ちつつ、理解を得るには効果的だった。


「魔法を諦めろというのではありません。ギルド活動の一環として剣術への理解と鍛錬に励むものにしたいのです。時にはナイトギルドと交流しながら、お互いを知る良い機会になるでしょう。剣と魔法が組み合うことで、良いパートナー、良いバディが見つかるかもしれないわ」


 この発言で女子生徒たちから歓声が上がった。身内から賛同する拍手が湧き上がってしまった以上、罵っていた人たちも強く出られない。

 掛け持ち可能で自由参加のセクションが新設されるだけということもあり、反対意見が出ることもなくミーティングは締められた。

 解散後にエレノア会長とレティシアを取り囲む生徒たちが多くいる様子を見ると概ね好評らしい。

 今までは魔法実技と座学を中心にしていたところに、新しく剣術のセクションが加わった。でもナイトギルドと交流を深めていくのってエレノア会長の独断とワガママだったりして。


「実はその通りよ。フリックと一緒にいられる時間も増やせるし、今まで秘密にしていた間柄を少しずつバラしていくにはいいでしょう?」


 着実に外堀を埋められていく気がしてならない。がんばれ、カイザー。


「そうだ。あのね、会長に渡そうと思ってたものがあるんだ」


 ポケットから取り出した透き通る碧色がかった小さな宝石。六角柱の形は少しイビツだけど、存在自体に特別な意味がある。


「あの場所で見つけたんだ。このアクアマリンはふたりの思い出だと思うから」


 洞窟を調べた時に、実はひとつだけくすねていたんだよね。手をつけなかったカイザーにも、収穫なしと報告したメイ先生にも悪いとは思っていたんだけど。



「嬉しい。このアクアマリンを見れば、いつでもあの日を思い出して生きていけるわ」

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