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愛のハナシと愛のカタチ4

 目を覚ますと集落の水は引いていた。見回って安全を確認しながら洞窟の巣穴に向かってみる。

 洞窟の入口からすぐの場所で、水没したままというのは見て取れた。


「何の毒が混じってるかわからねぇからな。触れるなよ」


 メイ先生もメチャクチャなクエストを押し付けたと思う。前知識なく斬りかかっていたら痛い目を見るどころの話じゃなかった。


「下を見ろよ。逃げ出そうとしてドン詰まったんだろうな」


 足下には薄汚れた水晶のかけらが散乱していた。


「魔獣ってのはこういうものに魔力と命を宿すんだっけか。ドラゴシャークの殲滅は成功したみてぇだ」


 散乱していた鉱石はアクアマリンだった。

 遊牧民たちは季節ごとに住処を変えながら、時には採掘と細工で財を成していたそうだ。拾い集めればかなりの稼ぎになるだろうし、メイ先生なら目の色を変えて飛び込んでいるだろう。

 でもカイザーは、そうしなかった。


「ひとつの場所に執着なんてないが、ここが終着地だからな」


 珍しく感傷に浸っているカイザーを横目にしてアクアマリンを拾い集めるなんて、思い出を穢す真似なんてしたくない。

 カイザーはどこからか摘んできた花を添えると、静かに手を合わせていた。


「さぁ帰るか」


 山を下りた麓の街で昼になったので帰宅は深夜だろうと思っていたんだけど、エレノア会長が騎士団詰所に交渉して馬車を手配してくれた。

 ブレナード家のツテとコネのおかげで喜ばしいけど、急ぐ理由があるらしい。


「夕方までに帰りたいの。荷馬車だけれど我慢して」


 荷台には幌もなく、物資輸送だけを考えたコンパクトな作り。簡単に言えば質素、拷問、罰ゲーム、最悪。


「普通のおおお、馬車とおおおおおお、比べちゃいけねぇええええが、これでも、マシかもなああああああ」


 振動と騒音が直接伝わる乗り心地の悪さで会話すらままならない。それでいて急ぎ気味なんだから快適な旅とは言い難い。


「ううぅ…………このような痴態……不覚。まだまだ、鍛錬が……足り…………」


「シア、こっち向くんじゃねぇ! 外向け、外!!」


 荷台で体育座りをしたり足を伸ばしたり、いろいろな姿勢を試した結果、仰向けに寝転がるのが楽だと気づく。空を見上げると陽射しが厳しいので、各々ハンカチやタオルを顔に乗せて目を閉じた。

 そう、ボクたちはみんな…………寝不足だったんだ。





「貴方たち、いい加減起きて頂戴」


 石で創られた大きな門柱、大きな建物。立派な中庭の中央には噴水が湧き出ている。

 ここはどこかのお城か宮殿か、それとも。


「…………地獄門?」


「何を寝ぼけているの。休むなら部屋を充てがうけれど」


 隣にいたはずのレナがいなくなっていた。レティシアの姿も見当たらない。


「ふわぁ~…………記憶が飛ぶほど爆睡しちまった。何かあったのかよ」


「自分たちの姿が周囲にはどのように映っていたと思う?」


 人が乗るには難がある荷台で、転げ落ちないようにロープで身体を固定した。アオリがあるから落ちる心配はなかったけど念のため。

 そして顔にはハンカチ。


「そんな格好で泥のように眠ってるから死体運びと勘違いされたじゃない。道中だって大変だったんだから」


 人通りの多い市街地では疑いの目を向けられたり、見回りの兵士に呼び止められるたびに事情を説明したみたい。まったく気がつかなかったなぁ。


「ここに来た時だってシアとレナは息を吹き返したけれど、貴方たちは」


「ゾンビみてぇに言うなよ、叩き起こしてくれりゃいいだろ!」


「だって、縛られても健やかで幸せそうに眠り続ける寝顔が可愛くて」


「恐ろしいこと言うんじゃねぇ……………………」


 エレノア会長ってこのメンバーじゃ一番の常識人だと思っているんだけど、なんだか自信をなくしそうになってきたぞ。でも生徒会長だし、名門の出だし、うーん。


「貴男たちも身体を清めて頂戴。着替えも用意させるわ」


 エレノア会長に先導されて、手入れの行き届いた中庭を抜けて屋内へ。

 数えるのもうんざりする客室の多さに圧倒されながら廊下を進んで行くと、裏庭にはプールまで確認できた。

 ここはホント、どこなんだろう?


「アクアトリノのお城?」


「ここはブレナード家の邸宅だ。ま、大昔は本当に城だったって話だがな」


「こんな大豪邸のご令嬢と結婚できるなんて、カイザーがうらやましいよ」


「決定事項でもねぇのにバカ言うなボケ。こんなの重圧にしかなんねぇんだよ」


「カイザーでも繊細な神経を持ってたんだね」


「てめぇも言うようになったじゃねぇか」


「…………ずっと思い続けていたけれど、やっぱり将来は絶対に男の子が欲しい」


 エレノア会長は突然何を言い出すの!?

 ずっと、やっぱりってどういう心境?

 突っ込みたいのはやまやまだけど、白目を剥いて般若顔で絶命するカイザーが不細工すぎて笑いそうになったから顔を背けておいた。

 案内された風呂は圧巻としか言えなかった。

 プールのような広さの湯船、マーライオンの彫像から噴き出る源泉、ロウリュサウナまで完備。ここが名門ブレナード家個人の邸宅なのか疑問に思ってしまう。


「代々騎士団を束ねてるし道場もやってるからな。門下生も多いし、あれだ、ノブレスオブリージュってやつだ」


 つまり鍛錬後にみんなでお風呂に入るってことだね。


「そんな単純な話じゃねぇな」


 手早く全身を洗い流してお風呂を上がると、用意されていた着替えはまさかの甚平。


「こういうところが変に古風なんだよな。ま、海が近くて蒸し暑いし…………今日に限れば風情があるか」


「今日?」


 勝手がわからないままカイザーを真似て後をついていく。空は少しずつ夕焼けに染まり始めていた。

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