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愛のハナシと愛のカタチ3

 夜も深くなり、みんなで話をしたいというエレノア会長の誘いで一箇所に集まった。焚き火が爆ぜる音が心地よく、レナは眠りについていた。


「えっと、何か話があるの?」


「夜は長いわ。話し相手が欲しかっただけよ」


 そう言いつつ誰からも言葉は発せられることもなく、無言で焚き火を見つめている。

 レナが寝てしまったから、さっきまで剣を交わし合ったエレノア会長とレティシアだけじゃ気まずかったのかな。この状況を打破したいからボクが呼ばれた……なんてね。


「ねぇ、ふたりはケンカの仲直り、できたの?」


「ぶっ!」


 カイザーが吹き出した。つられてエレノア会長、レティシアからも笑みがこぼれる。


「ええ、おかげさまでね。ゆっくり話ができたからシアとのわだかまりはないわ。些細なケンカだったのよ」


「この一件では先走りしすぎて迷惑をかけてしまったが、今はこの通り、エリーとは仲直りできた」


 ふたりの決闘はケンカなんていうものじゃなく、命のやり取りだった。だから敢えてそんな表現をしてみたんだけど…………シア? エリー?


「ところでカイザーよ。なぜフルプレートを身にまとっていたのだ。その装備でエスカレアからの移動は大変だったであろう。目立つだろうしな」


「これは集落の地下倉庫に眠っていたものだ。さすがに持ってこねぇよ」


「つまりそれは、遊牧民の……」


「いや、何年か前にウィキスタからくすねてきた」


 まさかの盗品!?

 遊牧民に伝わる伝説の装備じゃなくて!?


「アレと戦うことになったら、ないよりマシと思っただけだ。今日に限れば仮眠中に寝首をかかれたくなかっただけだが」


 今はフルプレートを脱いで普段の姿に戻っている。警戒する必要がないと信じているからだろう。


「ウィキスタといえば、昔から血の気が多くて頭でっかちが多くてな。他人の話には耳を貸さねぇし、かかってくる奴らはまとめて全部ぶちのめして遊んでたぜ。その報酬だと思えば安いもんだろ」


 ウィキスタ術科学校の生徒は騎士の家柄が多く、正義感も強い。彼らからすれば復讐心を隠し持つカイザーが目障りに思うのも仕方ない。


「最近シアがけしかけたヤツらも、過去の恨みを晴らしたかったんだろう。はっはっは」


「……………………それはその、すまなかった」


「いてっ!」


 即座にエレノア会長の鋭い肘打ちが入った。カイザーなりに笑い話にして場を和ませようとしたんだろうけど、この人物像はレティシアにも当てはまる。


「全部終わったことだからな。ラドのおかげでアレにも復讐できたしな」


「今回、ボクは本当になにもしてないよ。ドラゴシャークを倒したのもレナの力だし、鍛錬指南をしてくれたのはシア隊長だし……」


「それも含めてお前のおかげってこった」


「ええ、ラドは本当にいい子なの。貴男のこともずっと信じていてくれたもの」


 謙遜でも卑屈でもない事実なんだけど、ここまで持ち上げられるといい気持ちを通り越して逆に不安になるかも?


「まぁでも、ウィキスタっつーかナイトギルドも悪い連中じゃねえんだ。奴らにも正義ってものがあるし、俺様も正義を振りかざして返り討ちにするだけだ」


「行き過ぎた暴力は駄目よ。私は貴男を護るために生徒会長になったんだもの」


「マジェニア学園生徒会長の肩書きだけじゃ、どうにもならんだろ」


「バックにはブレナード家も、アクアトリノ王国だっているわ。学園長だってなんだって、すべてを使って貴男を……」


「わかったわかった、わかったから! 物騒なこと言うんじゃねぇ!!」


 なまじ権力や立場があるだけ、もしかしてカイザーよりタチが悪かったりする?


「私は騎士団長の娘として、騎士になるべく育てられたの。それをフリックにすべて捧げると誓ったわ。そうしたらフリック、どう返事したと思う?」


「どう……って?」



「『お前のすべてを貰ってやるよ』って」



「プロポーズ!? それってプロポーズだよね!!!」


 眠りに落ちていたレナが飛び上がって興奮し始めた。この話、いつから聞いていたんだろう。


「そんなんじゃねぇから大人しく寝てろ!!」


「カイザーよ、責任は取らねばならぬ。ひとりの女の人生を奪ったのだからな」


「当時はガキだっただけだろうが!! 他意なんて何もねぇ!」


「私たちは許嫁。婚約者。彼氏と彼女。熱々のカップル」


「そんなん言うから周りが勘違いすんだろうが!」


「ふたりとも素敵……いいなぁ、ラドくんいいなぁ」


 取り乱して狼狽える様子は普段じゃ見られないけど、本気で怒っているわけでも否定してるわけでもない。


「カイザーとエリー、ふたりに問いたい。お互いに……その、愛し合っているのだろうか」


「俺様は別に、なんとも思っちゃいねぇぞ!?」


「すまぬが真面目な話なのだ。今回の件の発端でもある。どうだろうか」


「…………まぁ大切な存在では、ある……かもな」


 そう、真面目な話なんだ。

 だからボクは…………レナの表情をみんなに見せないよう隠すのに必死だ。


「私はフリックを愛しています。主従関係と言われても否定しないわ。でも、誰にも邪魔なんてさせない」


 主従関係なんて言葉を出しちゃうからトリートも勘違いしちゃったんだろう。姉妹の仲は良さそうだからお姉ちゃんを返してって思う気持ちはわかる。


「恋愛は好きになった方の負けというけれど、好きになったからこそすべてを捧げたいと思えるの。そう、私は愛の奴隷。フリックの奴隷なのよ」


 すごく真面目な顔で言うものだから、その言動がトリートが勘違いする原因なんだって言える雰囲気じゃない。


「そうか。重ね重ねすまなかった、私は大きな勘違いをしていたのだな。片方のみの話を鵜呑みにして、ナイトギルドを煽動する結果を招いてしまった。その上、マジェニア学園生徒会長にまで歯向かったのだ。カイザー、そなたが望むのなら退学処分でも、いかなる沙汰でも受け入れるつもりだ」


「まてまてまて、しなくていい、しなくていいからよ!」


「私も何も望まないわ。シアは仲間ですもの」


 エレノア会長とレティシアは本気で剣を交えて一悶着あったけど、雨降って地固まる結果になったみたいだ。

 実際に降ったのは湖の大波だったけど。


「ラドくん。いいなぁ許嫁、いいなぁ婚約者。ねぇねぇ愛だって、愛!!」


 許嫁って、婚約者って、彼氏と彼女って、何をするんだろう?

 何を考えて、どんな生活を送るんだろう?


「優しく起こしてくれて、一緒にごはんを食べて、一緒にお風呂に入って、一緒の布団で眠って…………え、は!?」


 ボクは何を口走っているんだ?

 ボクの妄想とレナの言葉に感化されて無意識に思考が溢れ出てしまった。


「なに言ってんだお前。んなことあるわけねぇだろ」


 エレノア会長も俯いて小さく首を振っている。焚き火の灯りだけでは表情や顔色までは読み取れない。

 残酷な現実なんて知りたくなかったのに、違うの?


「メシ、風呂、添い寝なんてよ、お前たちの方がよっぽどだろうが」


 考えてみればそうかもしれないけど、クリス先生っていう保護者もいるわけだし。ボクが思い描いた愛のカタチとはやっぱり違う気がする。


「ちちち、違うからっ! そういうのじゃないもん!!」


 すべてをかき消すように、大きく手を振ってレナが否定した。

 違うってのは同意するけど、ここまで必死に嫌がられるとかなりショック!


「レナ、そしてラド。貴方たちもいずれわかる日がくるわ」


 愛じゃなくて哀だとか、ただの勘違いだとか……そういうオチ?

 レナは大きく頷いている。ヤバいちょっと泣きそう。


「風呂、か。カイザーよ、このような素敵な伴侶がいたのならば風呂を覗くという暴挙は控えた方がよかろう。私も見られたのだ、忘れたとは言わせぬぞ」


「ばっ、そんなこと、してねぇだろうが!!」


 ボクは無意識に俯いて小さく首を振ってしまった。さっきのエレノア会長もこんな気持ちだったわけじゃ…………ないか。

 日の出より早い御来光を拝む勇気を持てなくて、夜中の夜明けから目を背けてからの記憶は残っていなかった。

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