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愛のハナシと愛のカタチ2

 メテオ魔法は周囲の地形を一変させてしまい、地滑りをおこして土砂と流木で埋まった場所もある。

 陽が落ちる今からの移動は危険と判断して、崖の上で野営をすることになった。幸いにも豊富な山菜と打ち上げられた魚を獲れば食料には困らない。


「こんなサバイバルな食事、初めてだわ」


「エレノア会長が未経験とは驚いた。私の故郷では年に数回の山ごもり鍛錬があるのだが、まさに地獄……」


「なんだかんだで過保護に可愛がられてたってこったろ」


「こんな経験も悪くないわ。それより…………貴男、今私を可愛いって言ってくれた」


「ばっ、な、可愛がられてるっつっただけだろうが!!」


 熱々のカイザーとエレノア会長のイチャイチャを横目に、熱々の焼き魚を黙々と口にする。普段の屈強な大男から想像できない一面を見せつけられると、なんだか冷めるなぁ。


「…………そういえば塩があったよね。レナもぶつける?」


「見苦しいから止めなさい。でもふたりってすごくいい感じでカップルみたい」


「そっか、レナは見張りしてたから知らなかったんだ。このふたりは許嫁……」


「おいコラそれ以上言ったら殺すぞボケ! 誰が夫婦だ馬鹿野郎!!」


「そうよ。アクアトリノでは十八歳にならないと結婚できないもの。だから今はまだ」


「エリーも黙ってろ!! つーかラド、塩があるならこっちにも寄越せ。どうして都合よくそんなモン持ってんだ」


「途中の廃屋で見つけ……んぐっ!」


 話を遮ってチョークスリーパーで締め上げられた。これ以上話を大きくしたくないからだろうけど、女子供には手を出さないんじゃなかったっけ?


「そういえば途中で人がいた形跡があったな。盗賊の根城だったかもしれねぇ」


「屋根のない廃屋の焚き火を蹴飛ばしたのって、カイザーだった?」


「お前の仕業だったのかよ!? ったく、あそこでひと休みできなかったじゃねぇか。紛らわしいことしやがって」


「でもあそこが本当に盗賊の根城だったら?」


「ちっ、食えねぇ奴だなお前」


 上を見上げると星空が手に届きそうな錯覚になる。

 耳を澄ませば風に揺れる木々の囀り、そして少しずつ集落から流れ出る水の音。


「朝まで放っとけば間違いねぇだろ」


 ドラゴシャークの巣穴が近く、魔獣や野生動物の危険に備えて交代で休みをとるべきなんだけど……。


「貴男とラドは巣穴の監視、私たちは入口側にするわ」


「…………わかった、任せたぜ」


 巣穴といっても水に沈んでいるから、実質、小さなダムを眺める感じ。


「ねぇカイザー、教えてよ。今回のことはメイ先生も絡んでるんだ」


「そんなんだろうと思ったぜ。孤児になった俺様を引き込んだのも、エリーをそそのかしてエスカレアに引っ張り出したのも、すべてメイセンだからなぁ」



 どういうこと?



 その前に確認しておきたい。エリーっていうのは、やっぱり?


「言ってんのは俺様だけだなぁ。エレノアだから愛称はエリーってな。まぁ、家族も言ってるか、トリ子も」


 トリートの仇討ちはエリーお姉ちゃんを助けるためだと言っていた。

 それがまさかエレノア会長だとは思いも寄らなかったけど、気づいていればもっと上手に話を進められたかもしれない。


「トリートがさ、お姉ちゃんが悪い男に捕まっているから助けたいって話してたんだよ。振り返るとまるで遠い異国のおとぎ話みたいだね」


「おとぎ話か。ははっ、あながち間違いじゃねぇかもな」


 孤児だったカイザーは遊牧民スタインズに拾われて、家族として迎えられた。しかしアクアトリノ王国騎士団に攻め込まれ、この地で滅んだ。


「運良く生き残ったガキがひとりだけ、それが俺様だ」


 保護されたカイザーは騎士団長のブレナード家に迎えられて育てられることになった。その間にも間髪いれずにアクアトリノ王国は領土を拡大していく。


「ブレナード家、つまりエリーの親父さんには良くしてもらったがな、当時は恨むなっていう方がおかしいだろ。剣の腕を磨いて復讐する機会を虎視眈々と狙っててなぁ」


「それって、今でも…………?」


「んなわきゃねぇだろ」


 カイザーの気持ちを知ってか知らずか、エレノア会長は長女としてけなげに世話を焼いていたそうだ。それが父親からの教えのためか、生い立ちを哀れんだからかはわからないというけど。


「世話を焼き過ぎんだよ。まるで主人とメイド……いや、奴隷かってくらいに何でもやりやがる。それを見たトリートは勘違いしてヘソ曲げて、ヤキモチ焼いて捻くれてよ」


 そんなうらやましい環境にいるなんてと食って掛かりたい衝動に駆られたけど、冷静に考えると結構ツラいかも。

 悲哀と同情で施しを受け続けるのって、心が折れそう。


「保護されて何年後か……ちょっとした事件が起きたんだ」


 今夜のカイザーは饒舌だ。自身の過去を赤裸々にしゃべるってことは、つまり聞いてもらいたいんだ。

 だからボクも、しっかり受け止めたい。


「侵略のために滅ぼされたと信じ込んでいたが…………実はアレだ、アレ」


「アレ…………ドラゴシャーク?」


 アクアトリノ王国の目的は領土拡大ではなく、ドラゴシャーク討伐のためだった。

 数十年前に突如発生して、十年周期ということもあり遊牧民の間でも噂程度にしか知られていなかったそうだ。


「避難するよう説得したらしいが、奇抜な内容過ぎて信じなかった他の遊牧民たちは軒並みやられたって話だ。騎士団にも結構な犠牲者が出たっていうしな」


「確かにスゴイ数だったけど、そんなに強いの?」


「そりゃお前、毒液飛ばすわ毒ガス吐くわ、噛まれても引っ掻かれても死に至るなんて魔獣を公表したら、国中パニックになんだろ」


 表向きは山間部を平定して統一国家となったという名目で、ドラゴシャークの存在は闇に葬られることになった。同時に、軍事と政略上の緩衝地帯とすることで立ち入りすら制限されてしまう。


「復讐のために強くなろうと生きてたんだがな。真実を知ってからは……なんだ、いろいろあって家出した」


「そこ、端折るんだ」


「なに、これ以上世話になるわけにはいかねぇと思って身を引いただけだ。行くアテもないところで出会ったのが…………メイセンだ」


「そこで繋がるんだ」


 メイ『先輩』に拾われたフリック・スタインは、遊牧民の長を指すという称号、カイザーを名乗ってウィキスタ術科学校への入学に成功した。


 しかし、そんな家出生活も長くは続かない。


「所詮アクアトリノとエスカレア、お隣同士だ。あっさり調べられてなぁ」


「徒歩でも日帰りできるくらい近いもんね…………って、ウィキスタ?」


「俺様はウィザードでもねぇし、剣には自信があったからな。当時はお構いなしに荒れて暴れまくってたぜ」


 手に負えない問題児だから退学になって、マジェニア学園に入ったのかな?


「お前変なこと考えてんだろ。でもいろいろあったのは事実だ、ウィキスタからマジェニアに移籍させられるわ、ブレナード家の口利きでナイトギルドにぶち込まれるわ、挙げ句エリーは騎士道を捨ててウィザードになるとかヌカすわで今に至るってこった」


「そっか。でもどうしてエレノア会長は騎士を断念したの?」


「……ナイトの俺様を、後方から支援したい…………からだそうだ……」


「…………それで、本音は?」


「……………………俺様を立てるために、身を引いた」


 レティシアと戦ってる時だって強かったもんなぁ。もしかしてカイザーより……?


「お前とレナに秘密があるように、俺様の秘密は誰にも漏らすんじゃねぇぞ」


「クラスのみんなにも?」


「たりめぇだ」

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