愛のハナシと愛のカタチ1
見晴らしのよい崖の上からは湖をよく見渡せる。
その場所で優しくレナの両肩を抱いた。
「周りが安全ってわかってても、安心して集中できるんだもん」
カイザーにエレノア会長にレティシアと、腕の立つ用心棒が揃っているんだからここまでする必要なんてなさそうだし、何よりちょっと恥ずかしいんだよね。
「ようやく決定的瞬間を見られるってわけだ。ちょっと楽しみだぜ」
「前に私が見た時は日没後だったから、よくわからなかったのよ」
「何が起きるというのか、僭越ながら見届けさせてもらおう」
「みなさーん、いきまーす」
恥じらいが杞憂だとわかると、それはそれで勘違いってことでやっぱり恥ずかしい。レナは目を閉じて意識を集中している間は完全に無防備になってしまうので、ボクが支えているんだよって言い訳したいくらい。
「ラドくん。ちょっと……ちょっと大きめを探してみるね」
「うん」
「んふふ、楽しみ」
「ん、え?」
まばらに雲が広がる青空、陽の光で輝く水面。
のどかな情景が急転して、まるで暗雲が立ちこめたかのような空模様に変わっていく。山の天気は変わりやすいというけれど天候が崩れたわけじゃない。
気づけば湖の上空だけナイフで切り取ったかのように、漆黒の闇が広がっていた。
「おまたせー……」
裂け目から隕石が顔を覗かせた時にみんなから驚きの声が上がった。これがレナの得意技。レナの秘密、メテオ魔法だ。
「ラドくん、いくよっ!」
あとは湖に向かって落下していくだけ…………なんだけど、いつもと違って大きすぎるんじゃない?
「いっけぇーっ!!」
言葉を発した瞬間に鳴り響く轟音と地響きの衝撃。大きな湖の水がすべて天まで届いたんじゃなかと思えるくらいの大きな壁がボクたちに向かって倒れ込んできた!
「ふっ、ふざけんなーっ!!」
「ふむ。これが秘められしレナの力というものか」
「に、逃げようよみんな!」
しがみつけそうな木々が近くにあるわけじゃなく、このままだと崖上のボクたちまで飲み込まれてしまいそう。
「全員、私の側から離れないで!」
エレノア会長が魔法を唱えると氷の壁が創り上げられ、大波の衝撃を防いだ。襲いかかる濁流も周囲だけが凍てつき、まるで氷のかまくらに閉じ込められたかのようだ。
「会長さん、すご……」
「水系が、特に氷の魔法が得意で助かったぜ」
「もうすぐ終わるわ。合図をしたら、入口にもう一度メテオで蓋をするのよ!」
「は、はーい!」
「行くわ!」
砕け散った氷の先にはキラキラと輝く青空が広がっていた。幻想的な情景も一瞬、再び闇が空を引き裂く。
ズドォオオオン。
尻餅をつきそうな地響きが収まった時には集落が深く水没していた。
さながら湖底の古代都市のようだけど、行き場を失った濁流はドラゴシャークの巣穴を満たしてくれるはず。
「これで根絶やしにできるでしょう。それにしても……」
氷壁よりも冷たい視線がレナに突き刺さる。ここにいる全員、水圧で潰されるか濁流に飲み込まれるかの危険な状況だった。
「…………無事だったんだから、まぁいいじゃねぇか。文字通り水に流そうぜ」
「それに貴男の故郷だって」
「人が住めねぇ土地なんざ未練も執着もねぇよ。偶然ここが最期の地だっただけの話だ」




