仇討ちと手配魔獣3
「おっ、ラドじゃねーか」
「メイ先生!? いたの!?」
ボクたちXクラスの担任教師なのに、ここ数日はずっと不在で自習続き。いてもあまり変わらないんだけどね。
「最近ずっと出張様でなー。調べ物様がアレやコレで、昼夜逆転様だったんだわ」
「何を言ってるのかわからないよメイ先生」
「それよりトリートのヤツはどんな感じだ? うまくやってんのか」
紆余曲折あって、レティシアが師範となり鍛錬をしたことを伝えた。もちろんボクまで巻き添えを食らったことも。
「シアってレティシアか。剣の腕が立つ変わりモンってのは知っていたが、適材だったっつーわけか」
「教え方は上手かったよ。昨日なんてついにトリートに一本取られたんだ」
「オメーがやられるってことは相当じゃねーか。フフフ、これでヤツも痛い目を見るってモンだ。ハハハハ」
「ヤツ?」
「違う、こっちの話だ、何でもねぇ」
「でもね、シア隊長もトリートもいなくなっちゃったんだ。鍛錬が終わりなら予め言って欲しかったよ。そうそう、関係ないけどカイザーもいなくなったんだよ。帰省するんだってさ。みんな不思議がってたけど」
「アァン!? ちょっと待てや、帰省っつったか!?」
「う、うん。歩いて丸一日はかかるんだって」
「バカヤロー!! 準備が全部パァじゃねーか! いやちょっと……ちょっと待て」
準備って何なのかの前に、どうしてボクが怒られるの?
「そ、そうだな……オメー今すぐひとっ走りしてレナを連れてこい。急ぎやがれ!!」
メイ先生が取り乱すくらいなんだから急を要するんだろう。意味を問いただす隙さえ与えられないまま、ウィザードギルドが活動している講堂に向かった。
「レナはいる……のかな。いつもの半分くらいしか人がいないけど」
こっそり覗き見しているつもりでも目立ってしまう。関係者の振りをして堂々と中に入ってしまおうか。
「貴方、何をしているの」
「ひゃっ、エレノア会長!」
「レナだったらグラウンドよ。それでは私は急ぐので」
「えっ、あ、うん、ありがと……う?」
エレノア会長が立ち去った後でヒソヒソと話し声が聞こえる。図書館で見覚えのある生徒もいるし、またしても噂話のネタにされてしまったようだ。
「……追いかけて…………そっけない対応……振られたみたい……」
うわあ、メチャクチャ恥ずかしい展開にされてる!
でもいいよそれで、もう。
前にエレノア会長とスプリント勝負をした場所に行ってみると、容易にレナを見つけることができた。
「どうしたのラドくん?」
レナの服装は体操着にハーフパンツ。
別に色気があるわけじゃないのに、物珍しさが新鮮でちょっと見とれてしまった。
「体力測定の時なんてブルマになるんだから、メロメロになっちゃうよ?」
機能性に優れているとはいえ、ブルマ姿の時はギルドを問わずたくさんの男子たちが見物に来て恥ずかしいらしい。
「下だけ水着みたいなものだもん。お家に帰ったら履いてあげよっか?」
この問いには明確な返答をしてはいけない。どう答えても立場が悪くなるんだから、曖昧に笑顔で誤魔化すのが最も効果的だと信じている。
…………教室までの道のり、こんなに長かったかな。
「レナを連れて来たよ……って、呼び出した張本人がいない?」
「ちょうどいいから、今のうちに着替えていい?」
おもむろに体操着に手をかけたので、慌てて制止した。
「ラドくんしかいないんだから構わないよ」
そういう問題じゃない!
レナを教室に押し込んで、ボクは外で見張りをする。
それにしても…………。
今、何が起きてる?
普段は裏で糸を引くような、手のひらで転がすような、狡猾に周囲を翻弄するタイプのメイ先生の様子がおかしかった。
話の前後から推測しても、カイザーの行動に関係しているだろう。
そうなると噂話の伝言を頼んできたエレノア会長、その相手であるレティシアまで線として繋がる。
これはつまり…………どういうことだろう?
「ラドくーん、ラドくーん」
「これが動き続ける接点P……いや、はいはい」
教室に入ると、手にした体操着で身体を隠したレナが突っ立っていた。
あれ、今ボク呼ばれたよね?
「きゃー、いやーん。ラドくんのエッチー」
「わっ、ごめん!」
踵を返して背を向けたら、開ききらないドアに顔面を強打して痛い。
「あはは、冗談だよ冗談。すぐ着替えるから待ってて。ほら、たまにはこんなラッキースケベがあってもいいって思わない?」
「それは見られる側の言葉じゃないから!」
つまりレナはボクをからかって遊んでるわけで、こんな時は決まって間が悪い運命が訪れることも知っている。
「オメーらお楽しみは結構だが、やるなら他でやれ他で。この教室はアタシの家でもあるからなー。それよりさっさとコレを見ろ」
弁明するチャンスを与えてくれないなら、いっそイジってもらった方が助かるなんて思いながら一枚の書面を読んでみた。
「手配魔獣の討伐要請だ。ココはちょいとばかし遠くてなー。人里離れたトコだから重要度は高くねーが、コイツを頼む」
地図と文字の他に、卵を守る大きなトカゲのようなイラストが描かれていた。魔獣の名前は『ドラゴシャーク』。頭部はサメのような形に見える。
場所はアクアトリノ、J地区とある。
「地名なんてねーんだわ。この一帯、今は誰も住んでねーし。そもそも立ち入り禁止区域になってるからな」
「そんな所に行っていいの?」
「アタシがオメーに頼むってのはそういう理由だ。上手くやれ」
「わかったよ。でもレナはどうして?」
「コイツらが孵化したら手に負えねー。でもレナだったらイッパツでドーンだろ」
「レナの秘密兵器、使っちゃっていいのかな?」
「あたしはいいんだけど、お姉……クリス先生に聞いてみないと」
「そこは問題ないぜ。今しがた学園長から、クリスのヤローには急な出張が入るように手回し…………いや要請が下ったからな。しばらく帰ってこねーだろ。ラドとレナにはよろしく伝えろと言付かってきたぜ?」
「さすがメイ先生、ぬかりないね」
「だろ。褒めんなよ」
「わかったよ。それでメイちゃん、あたしたちは具体的に何をすればいい?」
「まー聞け。コイツに限らず魔物や魔獣なんてモン、人里離れた場所でのさばる分には放っておけばいいだろ、キリがねーからな。でもよ、アクアトリノで建国祭があんじゃねーか。観光客がふらっと迷い込んだら祭も台無しってワケよ。アタシはな、みんなの安全と平和を守りてーんだよ」
うわぁ。すごく偽善でウソくさい。
「メイちゃん素敵! あたしがんばるね!!」
「わかってくれるかレナ。オメーにしかできないんだ。時間がない、今から急いで向かってくれ。みんなを守るためによ!」
次から次に大げさな口実が出てくるメイ先生には舌を巻くけど、レナには少しでも疑うってことを覚えて欲しいな。
「地図を渡しておく。この道を行けば半日は短縮できるはずだ。険しい道のりだが、冒険に慣れているオメーらにしか頼めねーんだ」
たやすく乗せられて任せられて、俄然やる気を出しているレナ。逸る気持ちを押さえきれず教室を飛び出した隙を見てメイ先生に小声で尋ねてみた。
「これ、カイザーの里帰りと関係してる?」
「んー? カイザーの故郷は山ん中だけどなー。ヤツであっても魔物に襲われたらひとたまりもねーだろーなー。でももし出会ったら、カイザーを助けてやれ」
あれ、まさかのカイザー関係なし?
ボクの推理は見当違いだったんだろうか。点と点が繋がったと思ったのに。
「オメー夜の山越えには慣れてるよな。道のりは険しいが任せたぜ」
ボクはエスカレア特別区に来る前、冒険をする旅人だった。国境を越えるために幾度もヤンチャしてたって話を覚えていたようだ。
国境越えって、ボクが子供という理由で怪しまれたり拒否されたり。やましいことなんてないのに拘束されたりするんだよね。
「ラドくーん。早く行こう、急ご?」




