仇討ちと手配魔獣2
翌日。
授業が終わった金曜日となれば残すはギルド活動だけになり、土日は自由参加なのでテンションも上がるもの。
「もうお腹ペコペコよ」
「姉さん、今日は寝坊して朝食を食べそびれたからね。のんびりとみんなで昼食にしない?」
「「「はーい」」」
腹ペコのジュディアに続き、ジュディス、ミーシャ、ボクとレナが教室を出ようとする。
しかしカイザーだけは動かなかった。
「俺様はこれから野暮用があってな。お前らだけで行ってこいや」
「珍しいねカイザー。今日の日替わりランチはハンバーグとエビフライだよ?」
「ミーシャの好みなんぞ聞いてねぇ。ちょっくら帰省するからな、時間もねぇしメシは途中で済ます」
ジュディアとジュディスは顔を見合わせてから、不思議そうに首を傾げた。
「あんたから故郷の話が出るのって珍し過ぎてウケる」
「何かあったのかい? 帰省だなんて、今まで一度も口にしなかったじゃないか」
ボクたちの中で一番付き合いが長いふたりが驚く事実に、みんなが時間を忘れて質問攻めにした。
人気メニュー、売り切れちゃうんじゃない?
「アクアトリノの山ん中だ。クソど田舎だから丸一日かかんだよ」
「エスカレア特別区のすぐお隣じゃないか」
「ミーシャのエレモア帝国だってすぐ隣には変わりねぇだろうが」
「そういえば週末ってお祭りじゃないかしら。えーっと、何て言ったっけ……」
「建国祭だよ姉さん」
「あーはいはい、そうだな、そうだそうだ」
「何よその言い方。あんた何か隠してない?」
「隠すもんなんて何もねぇぞ。てめぇが隠しとけ青色パンツ」
「いつの間に見たのよド変態マジ殺す!!」
荒れ狂うジュディアをみんなでなだめている間に、カイザーは荷物をまとめて足早に立ち去ってしまった。
ボクだって気になっているけど、いつにもなく深刻そうな顔をしていたんだから聞くに聞けなかった。関わらないのも優しさってことにしておこう。
みんなとの昼食を終えてから、今日も廃工場に行ってみる。
レティシアの薬のおかげで痛みは引き、小太刀を振り回すには支障もなさそうだ。
「今日は一本も取られずに防ぎきりたいな」
準備運動がてら素振りをして待っていても、レティシアとトリートは一向に姿を現さない。不安になって秘密基地に足を運んでみたけど徒労に終わる。
「トリートはともかく、シア隊長はサボる性格じゃないし…………つまり」
用済みになったのなら、そう言ってよ!!
昨日トリートがボクから一本取った時につぶやいた言葉を思い出す。
間に合ったって。鍛錬はこれで終わりだって。
まさか額面通りの表現とは思いもしなかったけど、この様子じゃ間違いない。
つまり夕方まで暇を潰す必要に迫られたわけだ。ひとりで鍛錬を積む気力も湧かないので気まぐれにブラブラと散歩をしてみる。
「図書館、かぁ」
なんとなくアクアトリノ王国について調べてみたくなったので、そのまま歴史コーナーまで足を運んでみる。
「十年前、現在の国の形に…………って、どの時点から十年前?」
子供向けから学者向けまでたくさんの蔵書がある中から、地図がついてわかりやすく解説している本を選んでみたんだけど。
奥付にはエスカレア歴七十年と記されている。
「そういえば今年、節目の年だって聞いた気がする」
様々な国や地域でそれぞれの暦が違っていたりするので、エスカレア特別区でも独自の元号を用いている。
受付の司書に確認したところ今年はエスカレア歴七十年であり、この本は新刊だと教えてもらった。
「それで……南のアクアトリノ王国と北のテレスタ共和国、どちらにも属さない山間部をアクアトリノと併合したのが今から十年前ってことなんだ」
地図を見てみると、アクアトリノ王国は海岸線の沿って東西に細長い形をしている。そこに山間部が併合されたので、まるでたんこぶのような、焼いたお餅が膨らんだような形になっていた。
「カイザーの故郷ってどのあたりだろう?」
山の中、歩いて丸一日という話からおおよその位置を割り出してみる。海沿いに街が発展しているから西端の国境まではいけるだろう。
でも、どこかで北上して山に入らなきゃいけない。
「うーん、見当もつかないや」
地図には街の位置と名前、景観のイラストが描かれているのに、山間部には目印になるランドマークが何も記載されていない。
「調べ物をしていたのね。探したわ」
「うひゃっ、エレノア会長!?」
「図書館ではお静かに」
ごもっとも。だけど気配もなく背後から声をかけられたらびっくりするってば。
「探したって、ボクを?」
「フリックが見つからないの。見かけたら伝言を頼めるかしら。ナイトギルドに変な噂話を吹き込んだ相手がわかったって」
「変な……って、女性を拉致監禁する外道で下劣なっていう、根も葉もない話?」
「ええ、本当に根も葉もない話よ。貴方はよく理解してくれているわ。いい子ね」
エレノア会長はボクを褒めながら、優しく頭を撫でてくれた。
突然のことで身体が固まってしまったけど、これはこれでとてもうれしいぞ!?
「ああっ、ごめんなさい。いつもの癖で、妹への対応と間違えて、つい……」
「あ、あの、いや、その……ありがとうございます」
「それよりも相手についてよ。レティシアだったわ。これは他言無用でお願いね」
変な噂を流したのはレティシア?
ボクとトリートに鍛錬をしてくれる、騎士道精神を尊ぶような人物が噂を流す嫌がらせなんてするの?
疑問と疑念が頭の中で絡み合い考えがまとまらず、返答に困って発した言葉は突拍子もなかったと思う。
「丸一日かかる山の中に帰省するんだって、お昼も食べずに行っちゃったんだ」
クールながら穏やかな表情が一瞬だけ曇ったのを見逃さなかった。すぐに戻ったけど、気を悪くさせたと不安になったものの、今度は焦りの様子が伺える。
「確かに『帰省する』と言ったのね?」
「う、うん。クラスのみんなも驚いてたよ。珍しいって」
「わかったわ、ありがとう」
「でもでも、暇潰しに故郷ってどこなんだろうって調べてるんだけどわかんないんだ。エレノア会長はどのあたりか知って…………ってあれ、いない?」
顔を上げた時には既にエレノア会長の姿はなく、ボクは独り言を呟いている状態になっていた。
「あの子…………あんなに親しそうに……しゃべ……」
「……見ない顔…………エレノア会長と……どのクラス……」
遠巻きから見ている生徒たちからの視線が痛い。
人気者の生徒会長を相手にあらぬ噂が立てられるよりも独り言の恥ずかしさをかき消したくて、逃げ出すように図書館を後にした。
暇を持て余すボクに行くアテなんかないので、Xクラスに戻ってきた。
教室には誰もいないけど、少なくとも変な噂を立てられたりトラブルに巻き込まれることはないはず。
「ボクと生徒会長でやましい噂が立つ心配はないだろうけど……シア隊長が変な噂を流したってどういうことだろう」




