【番外編】セシルとオーウェン③
自信が足りないなら努力で補うしかない。
仕事終わり、いつもならそのまま髪もとかず、家に直帰する。
しかし今日は念入りにメイクを直し、髪をとき、服を整える。
そしてオーウェンの仕事が終わっているか確認しに行く。
終わっている場合、一緒に帰る。
ただほとんどの場合はオーウェンの仕事が遅く、先に帰る。
廊下に出るとオーウェンがいた。
「えっ?珍しいね」
「セシルの元気がなかった気がして。気にしていたらギルバートが早目に帰らせてくれた」
目を丸くする。
そして笑みがこぼれた。
さっきまで何に落ち込んでいたのか忘れた。
こんなにも彼は私のことを気にかけてくれているではないか。
胸がほんのりとあたたかくなる。
「ありがとう」
笑顔で伝えるとオーウェンも笑った。
「今日は一緒に帰ろう」
「うん」
オーウェンと歩き出す。
私はオーウェンと並んで歩くのが好きだ。
二人で話しながら、たまにお互いの顔を見て笑う。
そういう穏やかな時間がとても好きなのだ。
「ギルバートのやつ、ハリーにヤキモチ妬いてさ。護衛を任せているのに、もう少し奥様から離れて立てとか言ってたよ」
「それじゃいざって時、護衛の意味ないよね」
ギルバートがそう言っているところは容易に想像がつき、笑えた。
オーウェンも楽しそうに笑っていたが、ふと真面目な顔になる。
「でもギルバートにもこんな人間味があったんだって。俺20年近く一緒にいるのに、奥様が来てからギルバートの新しい一面ばかり見て。なんか面白いけど少し寂しいっていうか」
「あなたたち、ずっと小さい頃から一緒だったものね」
オーウェンの複雑な気持ちがわからないでもなかった。
自分ではなく、後から現れた人物がどんどん新しい面を引き出している。
「でも、ギルバート様が幸せそうで嬉しいんでしょ」
「うん」
それにはオーウェンが迷いなくうなずく。
「二人を見ていたら結婚っていいなぁて思うよ」
「そうね…」
結婚という言葉に内心ドキリとする。
しかし気づかれたくなくて、言葉少なにうなずいた。
その様子を見たオーウェンが私の顔を覗き込む。
「セシルは結婚いや?」
「えっ?!」
直球で聞かれて、もろに顔に動揺が出た。
「嫌なわけないよ!オーウェンと結婚したいっていつも思って…」
ハッと口を押さえる。
聞かれていないことまで話してしまった。
恐る恐る顔を上げ、オーウェンの顔を見る。
すると彼は本当に幸せそうな笑顔で私を見ていた。
「よかった、俺もそう思っていた」
「えっ…」
オーウェンの言葉に胸の鼓動がはやくなる。
「俺もセシルと結婚したい。ずっとセシルの笑顔を一番近くで見ていたい」
ポロリと涙が溢れる。
それにギョッとしたように、オーウェンが目を見開くとおろおろとハンカチを取り出す。
「なんかプロポーズみたいになっちゃったな」
私の涙を拭きながら、オーウェンが照れくさそうに言う。
「でも本当によかった。セシルは結婚したくないのかもってちょっと思っていたから」
「えっ?!なんで?!」
予想していなかったことに涙も止まって、仰天する。
「結婚関連の話が出た時、表情が強張るから」
オーウェンが私の頬をぷにぷにする。
なんて細かいところまで見ているのだ。
「違うよ、結婚を意識しているって、がっついているって思われたくなくて、変に力が入っていただけ…」
恥ずかしさでもごもご言う。
まさか私の強がりが、そんな誤解を生んでいたとは。
「がっついているってなんだよ。俺の方がずっとセシルと結婚したいなって意識していたよ。ギルバートが王になって、奥様と幸せそうだし、そろそろいいかなって」
オーウェンが力強く言ってくれて、さっき引っ込んだ涙がまた出てきそうになった。
「セシル。昔から俺の気持ちを明るくしてくれるところとか、かわいいところとか、誰にでも優しいところとか全部好き」
オーウェンが私を抱きしめる。
「私も。私の細かい変化にも気づいてくれるところとか、誰にでも優しいところ、はちょっとヤキモチ妬いちゃうこともあるけど。オーウェンの包み込んでくれる優しさとか全部好き」
私もオーウェンの背中に手を回し、抱きしめ返す。
そして二人で顔を見合わせて笑った。
その1ヶ月後、私たちは正式に籍をいれた。
どうかこれからも健やかなる時も病める時も、あなたと共に…
〜セシルとオーウェン編fin〜
セシルとオーウェン編以上です。
本編で二人をもっと登場させたかったのですが、思いの外出せず、こういう形になりました。
等身大?身近に感じられる女の子かなと思います!
この話も楽しんでくださっていれば嬉しいです。
番外編まで読んでくださっている方、本当にありがとうございます。
次の番外編はアドルフとカレンの予定です。
よろしくお願いします。




