【番外編】セシルとオーウェン②
リーゼの昼ごはんを取りに調理場に入った時だった。
厨房で働く女の子の声が聞こえてきた。
「さっきオーウェンさんが荷物運んでくれたんです」
「オーウェンさん優しいよね!彼女いるのかな?」
「忙しそうだし、彼女作っている暇なさそうですよね」
「たしかに!私たちにもチャンスあるかもね」
楽しそうに盛り上がっている様子に足が止まる。
侍女仲間は私とオーウェンが付き合っていることを知っているが、他の人たちは知らない。
こんな風にオーウェンがモテることも知らなかった。
ほら、誰彼かまわず優しいからこうなるんだ、と唇を噛む。
けれど、ここで彼女だと名乗り出る勇気も自信もなかった。
「お昼いただきまーす!」
話を聞かなかったことにし、仕事に専念するしかなかった。
昼ごはんを届けに行くと、リーゼが
「今日は一緒に食べない?たまには私もセシルとごはん食べてみたい」
と声をかけてくれた。
悩んだが、なんとなくリーゼが自分を心配してくれているような気がしたので、その言葉に甘える。
護衛で側にいたハリーも一緒にテーブルを囲む。
「言いにくかったら言わなくていいんだけど、セシル、なんだか元気がない?」
不安そうにリーゼが聞く。
必死で元気に振る舞っていたが、やはりバレバレだったようだ。
主人に気を遣わせるなんて侍女失格である。
リーゼの問いかけにどう返事をしようか迷ったが、誤魔化すのも、余計に気を遣わせる。
それに私自身も誰かに聞いて欲しかったのかもしれない。
そう思い、口を開く。
「実は…その、私はオーウェンと付き合っているんですけど」
「ええっ?!」
ハリーが心底驚いた声を出す。
その声にやはり自分たちは付き合っているように見えないのかと内心さらにヘコむ。
もちろん公私混同するべきではないし、仕事仲間に悟られていないのは喜ぶべきなのかもしれない。
しかし彼女としての自信を失っている今、ハリーの素直な反応が胸に刺さる。
リーゼも驚いただろうか。
ちらっとリーゼの顔を見ると、特に驚いた様子もなく、頷いている。
「驚かないんですか?」
思わず聞くと、キョトンとした表情になった。
「だって二人を見ていたら分かるもの」
迷わず言われて、目を見開く。
「それは私が分かりやすいからですか?」
その問いに、ふふっとリーゼが笑う。
「同性の私から見れば、もちろんセシルはわかりやすいけど」
やはり私の気持ちはバレバレなのだ。
ほんの少し情けなくて、肩を落とす。
「でもオーウェンさんもわかりやすいよ」
「えっ?」
顔を上げると、リーゼが微笑む。
気を遣ってくれているのだろうか?
「どのあたりがですか?」
つい追求してしまう。
「いつも目線がセシルを追っているもの」
リーゼの曇りなきオパールのような瞳を見て、動揺する。
「なんかでも分かります!オーウェンはセシルさんと話す時が一番気が緩んでいるっていうか、リラックスされている気がしますし」
ハリーが元気よく、援護射撃をしてくれる。
リーゼが私を優しく見つめる。
「私の侍女をセシルに決めたのはオーウェンさんが最も信頼している人だからだって、ギル様言っていたもの」
二人の思わぬ言葉に涙が出そうだった。
もしかして自分で思っているより、私ってオーウェンの特別?
「ありがとうございます。彼女としての自信を失っていたんですけど、二人のおかげで元気が出ました」
そう言うと、リーゼとハリーがにっこり笑ってくれる。
「セシルは優しくて明るくて、とってもかわいいよ」
「そうですよ!自信持ってください」
二人の励ましに自然と笑みが溢れた。




