理解
語り終えたマリアンヌが力の無い目でギルバートを見る。
「何度もお前を殺そうとしたわ。その黒髪を見るたびに腹が立って。でもその紫の目を見るたびにやめてしまう」
自分勝手だった。ギルバート自身にはなんの罪もない。
しかし先程の話を聞くと、何も言えない。
誰が悪かったのだろう。
アドルフか、カレンか?しかし王は元々世継ぎのために一夫多妻制を認められているので、規則に反していたわけではない。
不平等に思えるが、規則という意味ではこの場合王の妻でありながら、他の者と関係を持ったマリアンヌや、王の妻と関係を持ったロルフが罰せられるのは間違いない。
例えアドルフが許しても、他は認めないだろう。
それはマリアンヌもロルフもよく分かっていたはずである。
しかしそれでもマリアンヌは溺れるしかなかったのだ。
自分の心を保つために。
自分だったらどうなるだろう。
もしギルバートが他に好きな人ができたら、どうなってしまうだろう。
考えただけで息がしづらくなる。
想像を振り払い、ギルバートの背中を見つめる。
「俺としては顔を見るたび、今後も殺されかねないやつを野放しにしておくのは危険だし、玉座を奪われる可能性も潰しておきたい」
ギルバートが二人を順に見る。
「マリアンヌの身の安全は保証しろ。それは約束しただろう。それが保証されないのならば、今ここでお前を潰し、次期王になる」
ロルフがギルバートを睨みつける。
ロルフが剣の柄に手を置き、緊張が走る。
ロルフとギルバートが睨み合う。
しかしギルバートが息を吐き、告げる。
「あなたがなりたかったのは王じゃないでしょう」
その言葉にロルフの手が微かに反応する。
「どういう意味だ」
「自分が一番よく分かっているはずです」
ギルバートがマリアンヌに視線を向ける。
そう。きっとロルフは王になりたかったわけではない。
きっとギルバートが次期王になることも別に問題ではないだろう。
ただ好きな人の、好きな人になりたかった。
そして好きな人の願いを叶えたかったのだ。
「心配しなくても二人のことを公にはしません」
ギルバートがはっきりと告げる。
それに驚いたようにロルフとマリアンヌが目を見開き、ギルバートを見る。
「昔の俺なら容赦なく、俺の脅威となるあなたたちをつぶしにかかったでしょう。けれど今は違います」
ギルバートがちらっと私を振り返る。
そして二人に視線を戻して言う。
「今の俺ならあなたたちの気持ちも少しは分かりますから」
「…あなたは幸せものね」
マリアンヌが少し羨ましそうに、ギルバート越しに私を見る。
ロルフがギルバートの前に立つ。
「心遣い感謝する。そして今まで、マリアンヌのためにと、お前を殺そうとしたり、お前の大切な人を殺そうとしたりした。本当にすまなかった」
ロルフが深く深く頭を下げる。
ギルバートが口を開く。
「俺はともかく、今後、今回の話を知ったからといってリーゼやオーウェンには絶対に手を出さないでください。俺の身の回りの人たちに何かあれば、次は必ず殺します」
ロルフがうなずく。
「気休めにしかならないかもしれないが、俺はこの国を出ようと思う」
「何を言っているの?」
ロルフの言葉に全員が驚いたが、一番驚いたのはマリアンヌである。
目を見開き、ロルフを見る。
「俺なりのけじめだ。ここにいれば俺はどうしてもお前のために何かしたいと思う。たとえそれが人の道に反することであってもだ」
マリアンヌを見て自嘲気味に笑う。
「だから俺はこの国を出る。ずっと兄と自分を比べ続けるのもごめんだしな」
「私を置いていくの?あなたがいなくなったらどうしたらいいの?!」
マリアンヌが取り乱したように、ロルフに詰め寄る。
そんな彼女をなだめるように、ロルフがマリアンヌの肩に手を置いた時だった。
閉め切っていた扉が開き、一人の人物が入ってきた。
全員が目を見開き、その人物を見つめる。
自分の口からこぼれ落ちる。
「国王陛下…」
そこにはロルフとよく似た金髪に紫の瞳を持ち、笑みをたたえたアドルフが立っていた。




