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同級生


ギルバートが冷たくベラを見下ろす。

「どうやって城に入った?」

ベラは何も答えず、爛々とした目で私を見ている。


私を守るように、そしてその視線を遮るようにギルバートが間に立つ。


「ロルフか」

ギルバートの言葉にベラが肩をピクリと揺らす。

「やはりな…」


「ロルフ様?」

なぜ突然ロルフの名が出るのだろう。

戸惑いを口に出すと、ハリーがそっと教えてくれる。


「実はリーゼ様とお姉様と庭で別れた後、ロルフ様の姿を近くで見たのです。ロルフ様がお二人をじっと見ていたように感じたので、少し不安になってギルバート様に報告をしました」


「そうだったの」

全く気が付いていなかった。


「大方ロルフに以前から復讐を唆されていて、今日手引きされ王宮の中に入ったのだろう」

その言葉にベラは唇を噛む。

反論しないということはその推察は正しい。


「オーウェン、こいつは牢屋に入れといてくれ」

「なっ!離しなさいよ!リーゼ・シルフ、絶対に許さないから!!」


「公爵を捕らえたのは俺だ。リーゼは関係ない」

暴れようとするベラをオーウェンが押さえ、ギルバートが睨みつける。


「リーゼ・シルフ。あんたは昔から本当に生意気だったわ。みんな私の言いなりだったのに、一人で飄々と過ごしていたかと思えば、急に誰も知らないはずのこと言い出して」

ダリアのハンカチのことである。


「不気味なのよ。全て知ってるみたいな顔して!あんた魔女みたい。この悪魔の子とお似合いだわ!」

「リーゼと似合いとは光栄だな」

ギルバートが息を吐く。


「何よ。お父様のことだってリーゼ・シルフが変な力を使ったんでしょう!」


「仮にそうだとして、昔も今もお前やお前の父親が実際悪どいことをしているのが問題だろう。リーゼを逆恨みするな」

呆れたようにギルバートが言う。

ベラが奥歯を噛み締め、つぶやく。


「何よ何よ何よ!引きこもりだったくせに、気づいたら王子の嫁?!たかが辺境伯の娘のくせに、私より幸せそうな顔して!あんたは昔からそう!みんな私にぺこぺこしてたのに、一人で幸せそうで!」

ベラが縛られた腕をよじりながら、椅子から転げ落ちる。


「ベラさん」

思わず呼びかけ、近寄ってしまう。

「私を憐れんだような目で見ないで!」

ベラが涙で滲んだ声で叫ぶ。


「あなた、リーゼが羨ましかったんじゃないの?」

その様子をずっと見ていた姉が口を開く。


「え?」

「そんなわけないでしょう」

ベラがこちらを睨みつける。


「こんな子…クラスで浮いてたくせに…」

ベラが憎々しげに吐き捨てる。しかし声を震わせながら言葉を続ける。


「…ひとりぼっちのくせに幸せそうで。周りもあんたを不思議がりながら、綺麗だ、精霊みたいだって、憧れみたいな目で…!」


最後には嗚咽が漏れていた。

予想していなかったベラの言葉に黙り込む。

しかし床に倒れたままのベラを見ていることができず、そっと起き上がらせる。


「触らないで!あんたに同情なんてされたくない!」

体は起き上がったものの、私を睨みつける。


「同情なんてしていません」

言い返した私に驚いたのか、ベラが口を閉ざす。


「公爵の件は完全な自業自得です。姉まで危険にさらしたことも許していません」

その言葉にベラが目を見開く。


「けど…昔のことは私も子供過ぎたかもしれません。もう少し言い方や、クラスメイトとして歩み寄ることはできたかもしれません」


沈黙が流れる。


「…ずっと何考えているかわからない子だと思っていたけど。いじめた時だって、泣きも怒りもせず、気付いたら学校に来なくなっていたし。でも、あんたも怒ることもあるのね」

ベラが憑き物が取れたように、息を吐き出す。


力無く、床に座ったままのベラをオーウェンが起き上がらせる。

「連れて行け」

ギルバートが命じる。


もう反抗はせずに、ベラが連れて行かれる。

何か言おうとして口を開くが、結局何も言えず、出ていく後ろ姿を眺めた。


姉が優しく私の背中を抱きしめてくれた。



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