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危険


姉と並んで外を歩くのはいつ以来だろうか。

隣の姉の笑顔を見て、口元が緩む。

今日は王宮に姉が遊びに来てくれた。

姉とルーナたちと王宮の庭をうろつく。


護衛のハリーも姉妹水入らずの方がよいだろうと気を遣ってくれて、庭には私たちだけだ。

公爵家の問題を解決してから、城の中でギルバートの評判は上々で、日々忙しくしている。


「そういえばギルバート王子の本当のお母様はどんな方なの?」

結婚してからの出来事を全て聞いてもらっていた時、姉がふと疑問を口にした。


私も実はずっと気になっていた。

本来なら王子を産んだ立場なので、側妃になっているはずだ。

しかし見かけたこともなく、異国の人ということしか知らず、聞いて良いものか迷っていた。


そしてつい先日、やっとギルバートから話を聞くことができた。

「ギル様を出産したと同時に亡くなられたみたい…」

「やはりそうなのね」


姉もうなずく。

噂すら流れてこないので、うすうすそうなのではないかと思っていた。


「異国の踊り子だったみたい。本当に綺麗な方で、王宮に踊りを見せに来られた際にアドルフ王に見そめられたそうなの」

残念ながらギルバートも母の記憶は一切なく、伝え聞いた話なので詳細はわからないらしい。


「そう。お母様も悔しかったでしょうね、我が子の成長を見ることができなくて」

自分も子供がいる姉が悲しそうな顔になる。


「そうだね。私もお会いしてみたかった」

もし生きておられたら、アステリア家の様子は大きく変わっていただろう。


「ギルバート王子も母の愛情を知らないのね…リーゼがその分たくさん愛して差し上げるのよ」

愛という言葉はまだ照れがある。


しかし姉の澄んだ瞳を見てうなずく。

あの人の力になりたいのは本当だ。


私のうなずきに姉も嬉しそうに笑う。

「さぁ、そろそろ戻りましょうか」

「うん」


『リーゼ!危ない!!避けて!!』

突然ルーナたちの悲鳴が聞こえた。

姉もルーナたちの声は聞こえているので、咄嗟に二人で抱き合い、横に転がる。


「はぁ…許さない。お前は絶対に幸せになんかさせない」

顔を上げると黒いローブを着た女が立っていた。

手元にはナイフが握られている。


そのナイフの輝きを見て姉が小さく悲鳴をあげる。

「誰?何が目的なの」

姉とお互いを庇い合いながら女に問う。


「もう忘れたの?私よ。お前のせいで人生めちゃくちゃ!」

女がローブをめくる。


「ベラさん…」

そこにいたのは憎悪に顔を歪ませたベラだった。


一体どこから王宮の庭に入ってきたのだろうか。

「狙いは私ひとりだから、お姉様逃げて!」

震えながら、姉に訴える。


「あなたを置いて行くわけないでしょう!」

姉も恐怖で涙を滲ませながら叫ぶ。


「美しい家族愛ね。二人とも死ねばいいわ!」

ベラがもう一歩近寄ってくる。


『私たちが突風を起こすから逃げて』

ルーナが提案してくれる。

こないだの温室と違って、ここなら風が吹いても不自然ではない。


何より、なんとしても姉は救わなければ。


提案にうなずき、姉を見つめる。

姉もルーナの声は聞こえているのでうなずく。

二人で手を繋ぎ、立ち上がる。


『今よ!』

ルーナの声を合図に風が巻き起こる。

「きゃあ!」

ベラが乱れた髪の毛を押さえ、かがみ込む。


それを背に姉と無我夢中で走る。

「ハリー!!」

城の中に入り、大声でハリーを呼ぶ。

そう遠くには行っていないはずである。


「はい!」

ハリーの元気な声が聞こえて、そちらを見ると

「またハリーか」

ハリーだけではなく、オーウェンと不機嫌そうなギルバートもいた。


その姿に安心して涙が出そうになる。

三人も私たちの様子がおかしいことに気付いて顔色が変わる。

「どうした」

ギルバートが私の肩を掴む。


「ベラさんがナイフを!」

短すぎる説明だったが、三人が庭に飛び出す。


そこにはふらふらと立ち上がり、私たちを追ってきていたベラがいた。

「動くな!」

ギルバートが言うが、ベラは焦点の合わない虚ろな目でこちらを見る。


「許さない!殺す!」

そう叫ぶと私に向かって走ってくる。

咄嗟に目を瞑るが、ドサッという音がして目を開ける。


するとギルバート、オーウェン、ハリーがしっかりとベラを取り押さえていた。

どうやら気絶させたようである。

ほっとして姉と地面にズルズルとしゃがみ込んだ。



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