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シルフ家


『風の噂で聞いたのだけど…』

このフレーズはどこから生まれ、何年使われ続けているのだろうか。


おそらく起源は私の家系で間違いないと思う。


シルフ家は昔から風の声が聞こえた。


例えば

『今日のヘンリーの朝ごはんはトーストだったぜ』

『ナタリーの部屋は汚いのよ』

とか、聞いてもいないのに勝手に聞こえてくるのだ。


風は人間を観察し、人間について話すのが好きなのである。

見聞きしたことを風同士で共有する。

それが私たちシルフ家には筒抜けというわけである。


あまりにも普通に人の声として聞こえるから、小さい頃は周りの人間が言ったことか、風が話したことか区別できなかった。


しかし会話ができるわけではない。

こちらが話しかけても向こうには聞こえない。まさしくどこ吹く風だ。

ただただ一方的に風のおしゃべりが聞こえてくる。


…はずだった。


なんと幸か不幸か私は風と会話する能力まで有していたのである。

そのことに家族が気づいたのは3歳の時だ。


『リーゼ、今日は何する?』

窓を開けると風が話しかけてくる。

「空飛ぶ!」


『リーゼは本当に空を飛ぶのが好きね』

『いくぜ』

ふわりと風が私を包み、小さな体を浮き上がらせる。


「お嬢さま!何をしているのですか?!」

私を起こそうと部屋に入ってきたメイドのソフィが驚いて声をあげる。


「ソフィ、おはよう。今ルーナたちに空を飛ばしてもらっているの」

「ルーナ?まさか風のことですか?」


私の周りに吹く、目には見えない風をソフィが目を凝らして見ようとする。


「そうだよ。時々こうやって遊んでくれるの」

その答えにソフィが口をパクパクさせる。


『私たちもリーゼが喋りかけてきた時は驚いたもの。人間と風が意思疎通できるなんて思わないし』

驚いているソフィを見て、ルーナが笑う。


幼い私は意味がわからなかった。自分が言葉を発することができるようになってから、当たり前のように毎日風と会話していた。


ソフィが驚いている意味もわからないし、すべての人ができることだと思っていたのである。


「大変ですわ!旦那様たちに報告を!」

ソフィは宙に浮かんでいる私を引っ掴むと、リビングのお父様たちのところへすっ飛んで行く。


「旦那様!大変です!リーゼお嬢様は風と会話ができるようです!」

「なんだって?」


リビングにいた両親が驚いて、駆け寄ってくる。

一緒にいた7歳の姉も目をぱちくりさせている。


お父様が私の前にかがみ、目を合わせて問う。

「リーゼ、今の話は本当かい?」

「うん?」

幼い私は事態が呑み込めず、首をかしげる。


「とりあえずそばの風に話しかけてみて」

お母様が窓を開け放ち、私に声をかける。


外に顔を出すと、ルーナたちが漂っていた。

「ルーナ、あとでさっきの続きして~」

手を伸ばし、訴える。


『はいはい。あとでいくらでもやってあげるわよ』

「わーい」

ルーナの返事に喜んで両手をあげる。


後ろを振り返ると、お父様たちが顔を見合わせていた。

「たしかに会話が成り立っているな。私たちは風の声が聞こえても、風は私たちに話しかけられないはずなのに」


お母様は嫁いできた身なので能力はない。

首をかしげている。


「ルーナって風の名前?」

快活な姉が私に不思議そうに聞く。

「そう。ルーナとウィリアム、アンナがよく遊んでくれる」


「そうなんだ。いいなぁ、会話ができたら楽しそう」

姉がにこにこと私の頭をなでる。

嬉しくて私は姉にすり寄る。


「風にも個々の名前があるのか。考えたこともなかったな。てっきりその時々で生まれ、消えていくものかと」

お父様が顎に手を当てて考え込む。


「風は寝てる時間が長いんだって」

以前ルーナに聞いたことをお父様に伝える。


「なるほど。いずれにしてもリーゼのその力は素晴らしいものだ。風とのつながりを大切にしなさい」

お父様が私の頭をそっとなでる。


「はい!」

その時の私はあまり理解していなかったが、元気よく返事をした。



こののち大きくなった私は風とのつながりを大切にしすぎて、人間関係がおろそかになった。


そうして学校にうまくなじめず、徐々に学校に行かなくなり、15歳を迎えた頃にはすっかり立派な…



引きこもりとなっていた。



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