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瞳の色


ギルバートにより公爵家の罪が公となり、処罰が下された。


公爵自身は幽閉され、その行いに加担、もしくは見て見ぬ振りをしていた使用人たちも捕らえられた。

領地はもちろん回収され、公爵の妻、そして令嬢であったベラも身分を剥奪され、平民となった。


「これであの女もお前に近づくことはないだろう」

ギルバートが事の顛末を優しく私に伝えてくれる。

「そうですね…」


本当にこれで終わりだろうか。

彼女が今回の処罰を真摯に受け止めているとは思えず、不安が少しある。


しかし、何はともあれギルバートは無事に帰ってきてくれたのである。

そのことが何より嬉しい。


ギルバートやオーウェンの実力ならば、公爵にやられることはないと思っていても、帰ってくるまではやはり心配だった。

無事な姿を見てほっと息をついた。


「リーゼ、ドレスの準備は順調か?」

「セシルが張り切って準備してくれています」

今回のギルバートの活躍を讃え、国王陛下の命で祝賀会として舞踏会が開かれることとなったのである。


「褒美になっていないがな」

派手な催しを好まないギルバートが顔を歪ませる。

「仕方ないだろ。国王陛下なりに次の王であるお前が有能だってことを大々的にアピールしておきたいんだよ」

オーウェンが首をすくめる。


「国王陛下はやはりギル様を次の王にと思ってくださっているのですよね」

オーウェンの言葉に、思わず確認するようにつぶやく。


それに対し、オーウェンが困ったように言う。

「あの方は陽気でおしゃべりなわりに本心が掴めないところがありますので、なんとも言えませんが」


その言葉にギルバートがうなずく。

「まぁ順当に俺に王位を譲るつもりはあるようだな。俺が異国の血を引いているってことで次の王として認めていないやつらもいるが、それを黙らせたいみたいで、今回も派手に祝賀会をすることにしたようだし」


それに少し安心する。

王とマリアンヌやロルフとの関係性がわからないので、ギルバートにとっては敵だらけなのかと不安に思っていたのだ。

しかし実の父はギルバートを次期王と認めているのならばよかった。


「舞踏会は俺も一緒だが、こないだの茶会のこともある。公爵を捕らえたことで警戒心は増しているかもしれん。王妃には特に気をつけろ」


「はい。ギル様もお気をつけて」

「ああ」

マリアンヌと顔を合わすのは茶会以来である。


「それとお前が得てくれた情報はもう少し証拠を集めてから、行動にうつる」

「はい。事が事ですから、慎重に動かねばなりませんものね」


ルーナたちがくれた情報は公爵家の問題以外にも、もう一つ重大なものがある。

しかしこちらは大きすぎるし、相手も公爵のように簡単にボロを出すとは限らない。


とりあえず今は目先の舞踏会である。

ギルバートは仕事に行き、私はダンスの練習に励む。


最低限、辺境伯令嬢としてダンスも習ってはいたが、社交場に出たことは一度もない。

ギルバートに恥をかかせないためにも、真剣に練習に取り組んだ。



*****



舞踏会当日。

セシルにコルセットを締め上げてもらい、ドレスを身にまとう。


「奥様。いつも綺麗ですが、本当にお美しいですわ!よく似合ってらっしゃいます、王子様もきっと喜ばれます」

セシルが褒めてくれて、鏡の中の自分が恥ずかしそうに笑う。


薄紫のドレスに細かな銀の輝きが散りばめられている。

髪にはアメジストがあしらわれた髪飾りを付けている。

これでもかというほど、ギルバートの妻であることを強調したドレスが照れ臭い。


「引かれないかしら」

あまりにもあからさまにギルバートの瞳を意識した格好に少し尻込みする。


「何をおっしゃるんですか。このドレスは王子様直々の要望で作った物ですよ」

「えっ?そうだったの?」

思わずドレスをまじまじと見つめる。


「自分の瞳の色のドレスを着て欲しいだなんて独占欲のかたまりですね」

セシルがにやにやと笑い、思わず耳が赤くなる。

ギルバートも自分を妻として意識し出してくれているのだろうか。


最近は初めの頃よりずっと優しいし、会話も増えた。

それどころか茶会の日のキスを境に、毎夜キスをしてくれるようになった。

日に日に深く長くなっていくキスに何も考えられなくなる。


そのキスの意味を問いたい気もするが、結局勇気がなくて身を委ねているだけだ。

公爵以外のもうひとつの問題が解決したら聞いてみようか。


「王子様が来られましたわ。楽しんできてくださいね」

セシルに背中を押され、ギルバートの元に向かう。


ギルバートもいつもとは違った舞踏会用に洒落込んだ格好である。

思わず見惚れてぽーっとしてしまう。


カフスボタンにオパールがついているのは偶然だろうか。

それとも私の瞳を意識してくれているのだろうか。


「あの、素敵ですね」

もっと褒め言葉はたくさんあるのに、口をついて出てきたのはシンプルな一言だった。


「ああ。リーゼも」

そこでギルバートは言葉を切った。


どうしたのかと見つめると

「想像以上に綺麗だ。似合っている」

少し照れたように伝えてくれる。


頬が赤く染まる。

ギルバートがこんな言葉をくれるのは初めてだ。


しかも想像以上というのは自分のドレス姿をギルバートが思い描いてくれていたということだろうか。


嬉しさと照れくささでギルバートの顔を見ることができない。

もじもじと下を見ていると、腕を掴まれる。


「行くぞ」

「はい」

ギルバートに手を引かれ、会場へと足を進めた。



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