捕縛 (ギルバートside)
公爵を捕えるには、証拠を押さえねばならない。
残念ながらウィリアムたちの風の話では証拠にならないので、物的証拠を手に入れるのである。
最近はリーゼのおかげで信頼できる部下も増えたので、オーウェンを含め、10人ほど連れて公爵家に向かった。
万一にも公爵に気取られても困るので、公には狩りに出掛けていることになっている。
先程税を納めに来た民が公爵家に入っていった。
今日は納税日なのである。
入っていった人間は全員暗い顔をし、痩せ細っていた。
それに反して公爵家は外から見ただけでも煌びやかである。
「では行きますか」
オーウェンの声に頷き、真っ直ぐ公爵家の玄関に向かう。
正面突破である。
扉を開けて中に入る。
中に入ると使用人たちがみな目を丸くし、こちらを見ている。
さすがに公爵家に勤めているもので、王子の顔を知らないものはいないようだ。
突然入ってきた俺たちに文句を言うものはいなかった。
何をしに来たのか困惑しているようだ。
「扉を閉めろ」
当初の計画通り、屋敷の扉を閉じ、公爵家が逃げられないようにする。
外にも数人部下を置いているので、そう簡単に逃げられないだろう。
その様子にただの挨拶や視察ではないと感じた使用人たちが慌て出す。
「何をしに…」
使用人の一人が声を上げるが、それを無視して奥に突き進む。
一番奥の部屋の扉を開けると、民が床に頭を擦り付け、公爵がその頭を踏みつけているところだった。
扉が開いた音にこちらを振り返った公爵が目を見開く。
「ギルバート王子!」
「今すぐその汚い足をどけろ」
公爵を睨みつけると、自分の足元を見て、慌てたように足を下ろす。
「これはこれは。突然どうされたのですか?」
痩せ細った民とは対照的に余分な脂がたっぷりついた体を揺らし、こちらに近寄ってくる。
「お前を捕らえに来た」
「はっ…?」
公爵がぽかんと口を開けた瞬間に、やつの背後に周り手首を縛る。
「何をするんだ!離せ!」
一瞬で敬語が消え去り、公爵が唾を飛ばしながらわめく。
公爵をオーウェンに預け、先程まで頭を踏みつけられていた男を起き上がらせる。
「大丈夫か」
「あ、はい。あなたは一体?」
突然のことに状況がわからず、男は戸惑っている。
「この国の王子、ギルバート・アステリアだ。公爵家の悪事を暴きに来た。話を聞かせてほしい」
男の目を真っ直ぐ見て、伝える。
すると男の目からぼろぼろと雫がこぼれ落ちる。
「ありがとうございます、ありがとうございます…」
肩を震わせ、つぶやくその姿に、今までどれほど公爵に苦しめられていたかを感じ、胸が痛む。
「悪事だと?何を勝手なことを言ってるんだ!離せ!」
相変わらず公爵が喚き散らす。
それを冷たく一瞥した後、部下に向かって口を開く。
「家中をくまなく探そう。こいつが掠め取った他国からの奉納品があるはずだ」
「なっ」
その言葉に公爵が震え出す。
とっくに売り捌き、現金化した物もあるだろうが、売るにも闇ルートじゃないと売れないので手間がかかるはずだ。
最近の物はおそらくまだ残っているだろう。
「お父様、これは一体なんの騒ぎですか!」
女が一人部屋に駆け込んでくる。
公爵の娘、リーゼを傷つけたベラである。
「ギ、ギルバート王子!お父様!」
勢いよく部屋に入ってきたベラだったが、俺の姿を見つけ、捕らえられている公爵を見てわなわなと唇を震わす。
「あなた!うちにこんなことしてタダで済むと思っているの?!王妃に言いつけてやるんだから!」
ベラは取り乱し、叫ぶ。
なんて知能の低い女だろう。
「王妃に言ったところでどうにもならんぞ」
王妃は利用できるものを利用するだけだ。
問題を起こした公爵家を救うほど、公爵家やベラに情があるとは思えない。
オーウェンが捕らえた公爵を外に連れて行く。
その様子にさらにベラが興奮したように叫ぶ。
「私たちをどうする気?何が目的なの?悪いようにはしないわ、私はあなたの味方よ!なんなら私があなたの妻になってもいいわ。リーゼ・シルフよりよっぽど役に立つわよ」
混乱しているのか、言っていることは支離滅裂だ。
たかが公爵令嬢がなぜ自分に選択肢があるように、王子に高圧的な態度を取れるのだろう。
深くため息をつく。
相手にするのも馬鹿らしいが、聞き捨てならないことを言ったので、ベラに近寄る。
「ね、名案でしょう。公爵家があなたの後ろ盾になるのよ。ロルフ様に王位を取られる心配もなくなるわよ」
まだ言い募るベラの真横に剣を振り下ろす。
ベラの足ギリギリに突き刺さったその剣を見て、ベラが悲鳴をあげる。
「リーゼより役に立つだと?自惚れるな。お前ごとき、リーゼの足元にも及ばない。比べることすら傲慢だと思え」
ベラを睨みつける。
「今後リーゼに近寄れば、貴様の命はないぞ」
床に突き刺した剣を抜き去り、その場を去る。




