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自覚 (ギルバートside)



少し肌寒くなってきた。

そう感じ、開けていた窓を閉める。


「最近ギルバートの雰囲気が柔らかくなったって評判だよ」

その動きに一緒に仕事をしていたオーウェンが休憩と判断したのか、プライベートモードで話しかけてくる。


「それはいいことなのか?」

オーウェンのにやにや笑いに顔をしかめる。

「いいことじゃん。そのおかげで信頼できる部下も増えてきたし。いやぁ全部奥様のおかげだね」


オーウェンの言葉に押し黙る。

茶会以降、リーゼを心配したらしい風たちが王宮の情報をひたすら集めてくれている。

それにより、王宮内の人間関係を把握し、信頼できる者たちが徐々に増えていた。


またハリーの呼びかけにより、騎士団からも優秀な人材を護衛に起用することもできている。

そもそもハリーに目をつけたのがリーゼなので、これもリーゼのおかげと言えるだろう。


そういった人脈の広がりにより、今まで負担を一身に背負っていたオーウェンとセシルにも余裕が生まれ、前よりイキイキしている気がする。良い傾向である。


さらに今しがたオーウェンに指摘された雰囲気に関しては、自覚はなかったが、どう考えてもリーゼの影響だと思う。


それというのも…

「ギルバートが幸せそうだと俺も嬉しいよ」

オーウェンが真剣な顔で言う。


そうなのだ。

はっきり言葉にすると最近日々の幸福感が増している。


茶会以来リーゼとの会話が増えた。

あの茶会はリーゼにとっては辛いことでしかなかっただろうが、あれをきっかけに互いに心の壁がなくなった気がする。


少なくとも俺は以前に増して、彼女を守りたいと思うようになっていた。

初めて見た泣き顔、だがそれでも自分を変えたいと頑張る彼女を見て、愛しいと思ってしまった。


その結果が突然のキスである。

結婚式の時は能力が目的の結婚だったので、なんの感情も湧かなかった。

しかし、あの日はしたいと自分が自覚するよりも先に体が動いていた。


それをきっかけに俺は歯止めが効かなくなった。

リーゼと夜、寝る前にたくさん話すようになった。

そして彼女がおやすみなさいと言うと、毎日キスをする。


初めリーゼはとても驚いていたが、だんだんと自然に受け入れてくれるようになったり、俺の服を掴んだりしてくるようになった。


そんな様子に俺の心はどんどん満たされていった。

そうして日に日にキスの時間は長く、深くなっていく。


「でもまだ体は重ねていないんだ」

オーウェンのストレートな発言に思わず睨みつける。

そう、結婚してから結局一度もしていない。

「子もできた方が次期王としての立場は盤石になるのはわかっているが…」


初夜から本当は抱くつもりだった。

能力を目的とした結婚だったし、これからのことを考えると世継ぎが必要だったから、彼女に配慮するつもりはなかった。


しかし緊張と恐怖でがちがちになっている彼女を見て、今日はまぁいいかと思ったのだ。

そんな俺に彼女は優しいと言った。


そうするとなんだか、それ以降も無理矢理するのもかわいそうな気がしてきて、焦る必要もないかとなっていたのである。


けれど最近は違う。

世継ぎのためというのは関係なく、リーゼに触れたいと思うようになってきた。


だがそう思い始めると、ますますこちらの都合で抱いていいのかと躊躇いが生まれた。


毎日寝る時もお守りのように、俺が渡したブレスレットを肌身離さずつけているリーゼを見ると、やっぱり彼女を大切にしたいと思うのである。


「恋だね。それもだいぶ遅れてきた初恋だ」

オーウェンがからかうように言う。

それには返事をしないが、本当は自分でも分かっている。

リーゼに抱くこの気持ちがなんなのか。


「でもまぁとりあえず子どもは先か。今は目先の問題で手一杯だしね」

真剣な表情になったオーウェンの言葉に、俺もすっと落ち着き、うなずく。


「まずは公爵だね」

「ああ」


風は有益な情報を幾つかくれたが、特にそのうちの二つは大物だった。

慎重に動かなければならない。


取り急ぎそのうちのひとつ。

学生時代リーゼをいじめ、こないだの茶会でも彼女を傷つけたベラの父親である。


風たちもリーゼを護りたい一心で、特に公爵家に関しては注意深く調べたようだ。

おかげで破滅に追いやる手札を手に入れた。

それを無駄にせず有効に使うため、オーウェンと準備に取りかかった。




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