茶会
11話から14話は茶会編です。リーゼの過去も出てきて、少ししんどいかもしれませんが、ずっと書きたかった部分でもあり、最後に甘さもあるのでお付き合いください。
いつかは向き合わなければならない、恐れていたものがやってきた。
『暗い顔しないで。私たちがついてるよ』
ルーナたちが声をかけてくれる。
「うん、ありがとう。がんばるよ」
扉の前で深呼吸をする。
そしてゆっくりとドアノブに手をかけた。
中は華やかな温室だった。
色とりどりのバラが咲き誇り、美しい女性たちが集まっていた。
入った瞬間、視線が集まる。
「ようこそ、お茶会に」
そう言ったのは中央に腰掛けるマリアンヌ王妃である。
今日は半年に一度行われる彼女主催の貴族の女性たちのお茶会なのだ。
まずはみなさんに一礼。
「本日はお招きいただきありがとうございます。ギルバートの妻、リーゼです」
ここにいる全員、王妃の息のかかったもの、つまり私にとっては敵と思った方がいいだろう。
何をされるかわからないし、単純に大人数の集まりは学校生活を思い出して怖い。
けれど王宮で生活する以上、避けては通れない。
断った方が私だけではなく、無礼を理由に王子たちにも火の粉が飛ぶ可能性がある。
そのため覚悟を決めてやってきたが…
「お久しぶりね、リーゼさん」
サーモンピンクのドレスを身にまとった令嬢が声をかけてきた。
「ベラさん…」
私の引きこもりの発端とも言える彼女だった。
やはり来ていたか。
この茶会が憂鬱だった理由のひとつである。
クラスメイトだった彼女は公爵令嬢で学校内で一番身分の高い人物で影響力が強かった。
公爵は王家とも親交が深いと聞いていたので、もしやと思っていたが、やはり王妃と繋がりがあったようだ。
手先が勝手に震え出してくる。
『リーゼ、大丈夫。息をしっかり吐いて』
ルーナが声をかけてくれる。
そっと口を開け、息を吐き出す。
ベラが私に体を近づけ、耳元でささやく。
「まさかあなたが王子様の奥様とはね。どんな手を使ったの?」
本能的な恐怖で肩がピクリと揺れてしまう。
だが、ここで負けてはいけない。
変わると決めたのだから。
左手首のブレスレットを右手で覆う。
王子…いえ、ギル様、どうか私にあなたの勇気を。
昨夜、いつものように寝室に入った時だった。
「茶会は明日だな」
案ずるように王子が私を見つめる。
アメジストの瞳にいまだに緊張するが、やっと目を合わせられるようになってきた。
最近はその瞳が前より優しい気がするのは、私の都合の良い思い込みだろうか。
「はい。頑張ります」
無事乗り切れるのか自信がないし、とても怖いが、自分を奮い立たせるためにも宣言する。
「何かあれば温室の外にすぐに出ろ。近くにハリーも待機させておく」
「ハリーがいてくれるんですね。それは心強いです」
誰かすぐ助けてくれる状況というのは安心だ。
しかし王子はなぜか不機嫌である。
どうしたというのか、不安がまだあるということだろうか。
「ハリー、ハリーとずいぶん親し気だな。俺のことは王子と他人行儀なのに」
予想外の言葉にぽかんと口を開ける。
「深い意味はなかったのですが…」
役職という意味で護衛と偉そうに呼ぶようなことはできないし、なんとなくハリーと呼んでいた。
そこではたと気付く。
もしかして王子も名前の方がいいのだろうか?
よく考えれば王子という呼ばれ方はあまり好きじゃないのかもしれない。
私も前に王子に名前を呼ばれて嬉しかったし。
私に名前を呼ばれて王子が嬉しいかは不明だが、戸惑いながら口を開く。
「その、もしよろしければギルバート様とお呼びしても?」
王子はさっと目線を外す。
違っただろうか。不安になる。
「ギルでいい。長いだろ」
そっけなく言われたが、ギルとは。
思った以上に近しい距離感かと思ってしまう愛称を提示され驚く。
「なんだ」
何も返事をしないので、王子が睨むようにこちらを見る。
「あ、いえ!では…ギル、様と」
ちらりと王子を見ると、微かに笑ってくれた気がする。
「俺も明日、仕事が終われば近くに行く。何かあれば必ず助けを求めろ」
「はい。ありがとうございます」
王子までそばにいてくれるのか。ほっとして息をつく。
そんな私を見て王子が満足気な顔をした。




