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「奥様、お姉様からお手紙ですよ」

セシルがピンクの封筒を渡してくれる。

「お姉様から?」

嫁いできて3ヶ月ほど経つ。

ちょうど家族がどうしているか気になっていたので嬉しい。


いそいそと封筒を開ける。

手紙からは姉の柔らかい甘い香水の香りがする。

懐かしい香りに頬が緩む。


『かわいいリーゼ、元気にしている?私はとっても元気よ。旦那も息子も元気いっぱい。こないだ実家に顔を出したら、あなたも家を出てしまったからお父様とお母様、ソフィたちが寂しがっていたわ』


あぁ、みんなに会いたい。次々とみんなの顔が思い浮かぶ。姉の1歳の息子ももうずいぶん大きくなっているかもしれない。

今の生活に不満はないが、やっぱり家族は特別だ。恋しい時がある。


便箋3枚に渡り、近況報告と私の体調を案ずる内容が書かれていた。

手紙でもおしゃべりな姉に笑みが溢れる。


『p.s. あなたの恋は順調?』

不意打ちのその言葉に頬が赤く染まる。


「順調なのかな…」

頭に思い浮かべるのは黒髪に紫の瞳の彼の姿。

姉だけが私の想いを知っているのだ。


嫁ぐ前に姉と話した時のことを思い出す。

私が嫁ぐことになったと聞いて、実家にすっ飛んで帰ってきてくれたのだ。


「リーゼ!どういうこと?!あなたの美貌のせいでむりやり嫁にされたの?!」

私の部屋に荒々しく駆け込んでくる。ちなみに姉と私は見た目はよく似ていると思う。


「違うよ、能力が目的」

姉の発言をやんわり否定する。

「なんてこと!能力だなんて、リーゼをなんだと思っているの。そんな男こちらから願い下げよ!」

しかし余計に姉の怒りに油を注いだだけだった。


眉を吊り上げると、部屋を出て行こうとする。

「ど、どこ行くの」

「その男の家よ!って、相手は誰なの?」

勢いよく動き出したものの、相手も聞いていなかったらしい。

思わず笑ってしまう。


「ギルバート王子だよ」

「なっ…」

予想していなかったであろう名前に姉は目を見開く。

「そりゃリーゼの結婚相手は王子ぐらいじゃないと私は認めないけど、でも、よりによって悪魔の子…!」

口に手を当てて、わなわなと震える。


「お姉様、私が自分で決めたの」

震える姉に思い切って告げる。

「リーゼが?」

「うん。私、変わりたくて」

その言葉に姉が私の目をじっと見つめる。


「このままでいいのかなってずっと思っていた。お姉様も、お父様もお母様も優しいから、ずっとこの部屋にいることを許してくれていた」

そっと息を吐きだす。


「でもいつかは、遠い先の未来だって信じてるけどお父様やお母様もいなくなってしまうかもしれないのに、ただ引きこもっていちゃダメだって思っていた」

「その時はもちろん私の家に来てもらうつもりだったわよ」

どこまでも私に甘々なお姉様に笑う。


「あなたの気持ちはわかるし、結婚するのもいい変化かもしれない。でも相手は選んでいいのよ。王子と結婚して家の役に立つとか、王子だから断れないとか、そんなことは全然ないの!私たち、リーゼのためなら戦う覚悟ができているわ」

お姉様が私の手を握り、真剣な眼差しで言う。


泣きそうになる。

私はずっとこの温かな手に守られてきた。

「ありがとう。でもね、私、あの人だから決めたの。この人なら私の人生を変えてくれるって」

もちろん自分が変わらなければ人生は変わらないが、この人となら変えられると思ったのだ。


「噂は噂でしかなかったの?ギルバート王子は優しかった?」

姉が心配そうに見つめる。

「優しいかはまだわかんないけど…私にないものを持っているなって憧れちゃって」

王子の姿を思い出し、頬が染まる。


自分に自信があって、行動力もあって、意志が強いところ。

悪魔の子と言われながらも、その強さを保つにはどれほどの苦労を乗り越えてきたのだろう。


あの人が、私が固く閉ざしてしまった部屋の扉を開けて現れた時、その眩しさに目を奪われたのだ。


「リーゼのそんな表情初めて見たわ」

姉が優しく微笑む。

「それなら安心。あなたに好かれたらどんな悪魔だってイチコロよ」

姉の言葉に声をあげて笑う。


「お姉様、ずっと私を守ってくれてありがとう」

真剣に姉を見つめる。

「リーゼ。あなたの幸せを誰よりも願っているわ」

優しくそのあたたかな手で抱きしめてくれた。


そのぬくもりを思い出し、胸があたたかくなる。

そして街に行った日から毎日つけているブレスレットを眺める。

順調かはわからないけど、私は幸せだよ、そう手紙の返事を書こうと決めて、筆を手に取った。


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