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01「依頼」

新作です。

ラブコメ7:ファンタジー3ぐらいで書いていこうと思います。

「お願いジェス君! 貴方しかいないの!」

「お断りします!!」


 ローブを纏った白髪の美魔女。彼女は俺が通う魔法学園の学園長"ベロニカ=ローズ"さんだ。


 ベロニカ学園長は、歴代魔導士の中でも飛び抜けて優秀であり、数々の功績を残してきた。


「あの……そろそろ離してくれませんか?」

「貴方が頷くまで離さない!」


 そんな彼女が、生徒である俺に必死になって懇願するのには訳がある。


「"あの子達"をどうにか落第から救わないと、この学園はお終いなのよっっ!!」

「はぁぁ……」


 あの子達とは、学園始まって以来の問題児で、陰で【落第ガール】と揶揄される生徒達だ。


 この国の第三王女である"レイラ=ヴァルヘイム"ーー


 隣国アドアリア帝国の第二皇女である"ナミア=アドアリア"ーー


 世界一の魔導士と呼ばれ、賢者の称号を手にした男の一人娘である"ルージュ=マーリンーー


 それぞれ権力者の娘という厄介な背景があり、是が非でも卒業させたいのだ。


 因みに、みんな一年生である。

 このままだと、来年も一年生の可能性が高い。


 それを危惧した学園長は、二年の俺を頼り、問題児達の家庭教師を頼んで来た。


「適当に評価して卒業させちゃえば良いじゃないですか」

「そんな事がバレてごらんなさい! それぞれの権威に傷が付いてどの道学園は終わりよ……」


 それぞれが最高権威の娘だけに、適当な対処ではそれぞれの親を納得させる材料にならない。全く面倒な事になってきた。


「俺のメリットは?」


 引き受けるにしても、メリットがなければヤル気が出ない。それに万が一失敗したら、どんなデメリットが待っているか分かったもんじゃない。


 最悪、俺の魔導士人生が終わるかもしれない。

 それに釣り合うだけの報酬がなきゃね。


「金貨千枚でどうかしら!」

「安過ぎます、四千なら引き受けましょう!」

「二千!!」

「三千五百!!!」

「三千!!!!」

「し、仕方ないわね……」


 金貨三千枚で決着がついた。それだけあれば、最悪魔導士の道が閉ざされても生きて行くには困らない。


 それにしても、そんな大金どこから湧いて来るんだ?


「学園長の私財ですか?」

「そうよ……学園に来るまではブイブイ言わせてたのよ!」


 胸を張ってドヤる学園長。

 それなら有り難く受け取るか。


 俺の家は小さな宿屋を経営している。

 それだけのお金があれば、宿屋をリフォームして細々と暮らすのもありかもしれない。


 元々魔法学園に来るつもりなんてなかった。

 両親がお前の才能を潰したくないと暗い顔をするもんだから仕方なく通っているだけだ。


 別に卒業した後に国に仕える気もないし、戦線に出るとかもっての他。俺はただ、静かに暮らしたいだけだ。


 実を言うと、俺は鮮明な前世の記憶を持っている。思い出したのは、まだ五歳の時。


 高熱で死にかけた時、俺は唐突に前世の記憶を思い出してしまったのだ。地球という星で事故死した高校生の記憶を。


 それから俺は、二つの人格を融合した新しい自分になった。この世界で生まれたジェスでもあるし、地球で生きた男子高校生でもある。


 だけど、知識チートで異世界無双!

 なんて事はしたくない。


 身の丈に合った生活で、なるべく穏やかに暮らすのが理想だ。まあ、魔法だけは前世の記憶を使って色々やってしまった自覚はある。


 だって、魔法だよ?

 そんなロマンを放っておける訳がない。


 最初は魔力量を増やす事から始めた。毎日限界まで魔力を使い、許容量を少しずつ増やしていった。


 何年かして、ある程度魔力が増えた頃からは、オリジナルの魔法を使えるように試行錯誤していった。


 例えば、火を放つ魔法【フラム】を改良し、水と混ぜる事で爆発を起こす【エクスプロジオン】なんて魔法を創った。


 地球での知識を使って色々な魔法を創り出す工程にどハマりした俺は、夢中で研究を続けた。


 そしてある時、そんな光景を両親に見られてしまったのが不味かった。魔法の才を無駄にしたくないと思った両親は、魔法学園への入試だけでも受けなさいと、強制的に入学試験を受ける事に。


 その結果……入試をトップで突破してしまった。

 

 別に入るつもりなんてなかったが、結果を喜んだ両親は宿屋を担保に金を借り、半ば強引に入学を決めてしまったのだ。


 借金までして入学したからには、卒業しないと申し訳ない。そして今、その借金を一括で返すチャンスが巡ってきたという訳。


 そのチャンスを逃さないためにも、事を慎重に運ばないといけない。


「学園長。一つお願いがあります」

「なにかしら?」


「最初に教えるのは、レイラ王女からでお願いします」

「そ、それで良いの!?」


 思いもしなかったと言いたげに驚く学園長。

 それには訳がある。


「一番の問題児をなんとかする目処が立てば、後の二人も問題なく教えられますから」

「それもそうね……」


 そう、レイラ王女こそ、一番の問題児。

 落第候補No.1の"落第ガール"なのだ。


「では、明日の休日から始められるように手配致します。くれぐれもお願いしますよ!」

「わかりましたよ……」


 そして次の日ーー


 俺とレイラ王女は、学園長室で始めて対面する事になる。


「貴方が私の家庭教師ですか?」

「はい、ジェスと申します」


「お名前はかねがね聞いておりますよ。なんでも、学園始まって以来の魔才とお聞きしております。そんな方に、ご教授頂けるとは光栄でございます」

「いえいえ、こちらこそ、見目麗しいレイラ=ヴァルヘイム王女殿下にご指導出来るとは、大変名誉です」


 始まりは穏やか。


 俺の前に現れた女性は、輝くような美しさを厳かに放っている。


 腰まで伸びた艶やかなブロンドの髪。

 パッチリした二重から覗く碧い瞳。

 透き通るような色白の肌。

 

 スタイルも抜群で、白を基調とした落ち着いた制服が良く似合っていた。


 だが、やっぱりと言うべきか、身に纏う雰囲気は一般の生徒とは別物だ。これが王族かと、思わず平伏したくなる厳格で絢爛なオーラが滲み出てしまっている。


 近づき難い天上人。だからなのか、彼女は友達と呼べる者が居なかった。


「そんなに畏まらないで下さい……気軽に、レイラと。ジェス様の方が先輩ですし……」


 そう言って、期待の籠った瞳で見つめるレイラ王女。きっと、気軽に接して欲しいというのは本心なのだろう。


 敬われ、畏まられ、本音で話す事など今まで出来なかったのだ。


「じゃあ……二人だけの時はレイラと呼ぶよ」

「……っ」


 学園長の前なので、こっそりと耳打ちする。

 顔を薄っすらと赤らめ照れるレイラ。


「わ、私も、二人の時はジェス君って呼んでも良いですか?」

「……っ」


 思わぬ反撃にたじろいでしまった。

 後輩で王女様な女の子からの君付け……。


「勿論です!」

「良かったぁ! これからよろしくお願いしますね。ジェス先輩っ」


 そ、それは卑怯だ!

 普段は先輩呼びなのに、二人の時は君なのか!?

 


「あなた方、私が居るのをお忘れかしら?」

「「あっ」」


「あっ、じゃないわよ! まあ、二人とも気が合いそうで良かったわ……じゃあ、とりあえずお試しで一週間お願いね? 来週また此処に来て結果を教えてちょうだい」

「分かりました。それでは、早速レイラ様の実力を見たいので、教室に向かいましょう」

「分かりました! 頑張ります!」


 俺とレイラは、学園長室を出て、借りていた空き教室に向かった。魔法の実力を見る前に、先ずは学力の確認だ。

 


「ーーなので、この魔法はこういう成り立ちをしているのです」

「なるほど……全然分かりません!」


 事前に聞いていたので分かってはいたが、レイラは"お馬鹿さん"だった……。


「じゃあ、これの意味は分かりますか?」

「あー、これか……分かりません!」


「良かった、これぐらい……分からないですよね」


 うん、元気だけは良い。分からない事を素直に分からないと言うのは良い事だ。

 

 ただ、無駄に自信満々なのは勘弁してくれ。

 分かったのかと勘違いしてしまう。


 まあ、学力か壊滅的なのは分かっていたし、試行錯誤すれば期末までになんとかする自信はある。


 だが、魔法の実技が一番の問題だ。実際に見た訳ではないので判断は出来ないが、事前情報はかなりヤバい内容だった。


「次は実習室で魔法を見せて下さい」

「分かりました! 任せてください!」


 元気だけは良いんだよな。

 元気だけは……。


 そしてこの後、俺は後悔する事になる。

 彼女の家庭教師を引き受けた事を……。

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