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【完結】雪女と炎王子の恋愛攻防戦  作者: 雪村
10章 炎国王と氷の側近
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53話 冷たくも暖かい風

ヒダカside

炎の祠と呼ばれる場所は灼熱の洞窟近くに存在した。イグニ様の従者であり幼馴染であるワタクシヒダカはアイシクルの女王を連れて祠へとやってくる。


何でも先代国王様に重ねてお詫びを申し上げたいとのこと。イグニ様はこれからフロス様と会われる予定があると知っていたワタクシは案内役として名乗り出て今ここに来ていた。



「グレイシャー公、貴方は行かなくて良いのですか?」


「俺も謝る立場なのはわかってる。でも女王が1人で行かせろってうるさくて」


「なるほど。一度言ったらそれを貫く所は、我が主にも似ています」


「……」



共に来たグレイシャー公にイグニ様のことを話せば苦虫を噛み潰したような顔付きになる。やはりあの2人、戦争中に何かあったのだろう。


グレイシャー公とワタクシは炎の祠へと続く階段の前で女王を待っている。お互いに必要最低限の話しかしないからほとんどが無言だった。


そして10分くらい経った頃、女王が地上へと上がってくる。その顔は真っ赤になっていて熱さに少しやられているように見えた。



「あっついですわ」


「おかえりなさいませ。氷、必要ですか?」


「ありがとうグレイシャー。お願いするわ」



グレイシャー公は慣れた手つきで手のひらから氷を出すと懐から出した布で包んで女王に渡す。女王はそれを首に当てて炎の熱さを体から逃している。



「相変わらず口下手な人ですわ。でも声は優しいのに変わってますわね。神になると性格が変わるのでしょうか?」


「それはわかりません」


「まぁ良いですわ。戻りましょう」


「すみません。ワタクシは先代国王様とお話があるので、お2人は先にお戻りください」


「あらそう?なら私とグレイシャーは先にヒートヘイズに戻っているわ。せっかくフロスお姉様が居るのだから一緒に観光をしなければ」


「ぜひヒートヘイズをお楽しみください。何かあれば城の者が対応してくれます」


「ええ。それではお先に。グレイシャー、行くわよ」


「失礼する」



アイシクルの2人はここ周辺の気温に汗をかきながらヒートヘイズに戻っていく。先に戦争を仕掛けたという罪があるとはいえ、ちゃんと炎の祠まで来てくれるのは流石だと思った。ワタクシは2人の背中が見えなくなると静かな炎の祠への階段を降りていく。


イグニ様に最初聞いた時は自分の耳がおかしくなったと思った。でもあの時見たフェニックスは確かに神の力がなければ生み出すことは出来ない。半分は納得しながらも信じられないという気持ちもあったのだ。


しかしイグニ様が国王に就任してからやっとワタクシにも実感が湧いてくる。玉座に座る姿や、公務に追われる姿を見れば自然とこの人が国王なのだと頭の中で認識した。


いずれはなる立場だったけど、いざイグニ様が国王になったと思うと自分の心が熱くなるのを感じる。



「先代国王様。ヒダカです」


「どうした?アイシクルの者達とヒートヘイズに戻ったのではないのか?」


「お話があって来ました」



炎の祠の中へと続く大扉はピッタリと閉まっていてワタクシが来ても開くことはない。それはきっとこの中が王族でも耐えるのが難しいくらいに熱が篭っているからだろう。



「すまないな。本当は顔を見て話したいのだが、祠内の温度調整が上手くできないのだ。もう少し慣れればヒートヘイズの者くらいは入れるようになるだろう」


「構いません。ここからでもお話は出来るので」


「それで?話とは?」


「イグニ様の今後についてです。ご存知の通り、許嫁であったフレイヤ様との婚約は破棄されました。先代国王様もお察しかと思われますが……」


「雪の女神か?」


「…はい」


「儂も知っておる。肩書きだけの父親ではないからな。自分の相手は自分で決めさせる。アイシクルと不仲な関係も今では落ち着いているのだ。否定はしない」



大扉の奥からは呆れながらも優しい声が聞こえてくる。女王が言ったように性格が変わったようだった。



「それに、あの2人が結ばれることによってヒートヘイズとアイシクルの架け橋が出来るだろう。それはそれで良いことではないか。勿論フレイヤに対して申し訳ない気持ちは溢れんばかりにある」


「はい」


「もしフレイヤが今後何かを望むのであれば出来る限り叶えてほしい。それが儂からの償いだ」


「かしこまりました」



ワタクシは先代国王様に向かってお辞儀をする。見えてはないけど、それでも礼儀を見せるのは従者として当たり前だ。



「ヒダカとヒメナにも礼を言わないとな」


「えっ?」


「炎の祠で1人になって、過去を思い出す時間が増えた。でも儂の脳内にいるイグニの隣には儂の姿は無かったのだ。その代わり幼馴染であるヒダカとヒメナがイグニの両隣にいる。今ではもう少し父親として甘やかしてやりたかったと思ってるくらいだ」



イグニ様の母親、つまり先代王妃は早くして亡くなった。そして父親は厳格な国王。イグニ様は甘えることも出来ずに育って来たのだ。


確かに今更ではあるけど、そのおかげでワタクシやヒメナはイグニ様の近くに居られる。ワタクシは片手を胸に当てると誓うように国王様へ言葉を述べた。



「ご安心ください。ワタクシとヒメナはイグニ様の近くで見守っています。それに、いずれはイグニ様の隣に立つ方も同じ気持ちで居てくれるでしょう」


「そうか。ヒダカが言うと安心だ」


「……最後に1つ聞いてもよろしいでしょうか?」


「構わん」


「貴方は最初、焔の神をイグニ様に託そうという考えはありましたか?」



これはワタクシが1番聞きたかった質問だ。以前、先代国王様は護衛を数人連れてヒートヘイズ領を馬に乗って走っていた時があった。


もしかしてそれは炎の祠を探すと同時に自分かイグニ様、どちらが焔の神として相応しいかを考えていたのではないかと。そんな仮説をワタクシは立てた。先代国王様は少し黙った後、肯定の言葉を呟く。



「イグニは儂とは違って王族の力が強い。きっと訓練を重ねればより強力な炎を使えるはずだ。器としては十分くらいイグニは素晴らしい力を持っている」


「しかしイグニ様には託さず自ら焔の神ならなった理由をお聞かせ願えますか?」


「簡単だ。儂はもう十分外を楽しんだ。焔の神になれば後継者が出るか、命を絶つまで死ぬことは出来ない。そんな苦しみをイグニには味わせたくなかった。それだけだ」



もしイグニ様の父、先代国王様のような両親がアイシクルの女王やフロス様の側に居たら結果は変わっていたのだろうか。


現在アイシクルに神の存在は居ない。人間となったフロス様はまた外の世界で暮らせる。たぶん今の言葉通りだと先代国王様はフロス様の件を喜んでおられると思った。



「流石としか言いようがありません」


「儂には普通のことだ。まぁ、死ねないと言うのならばしばらくはヒートヘイズの変化を見守れるということ。もしかしたら孫が成長した姿も見れるかもしれない。別に嫌なことだらけだはないのだ」


「はい」


「イグニに伝えてくれ。またしばらくしたら声を聴かせるようにと。そしてその時までには祠の温度を調整できるようにしておく。好きな人と共に来いと」


「かしこまりました」



ワタクシは深くお辞儀をして炎の祠から立ち去っていく。地上に出れば木々の隙間から木漏れ日が差していた。すると暖かい風がワタクシの頬を撫でる。



「今日は風が吹きますね」



ヒートヘイズに戻ったら夕食会の準備をしなければ。きっと料理人達も張り切っているだろう。ワタクシは小さく深呼吸をして、我が主達が居る炎の国ヒートヘイズに戻って行ったのだった。

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