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【完結】雪女と炎王子の恋愛攻防戦  作者: 雪村
2章 雪女と氷の女王
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5話 雪女様のお悩み事情

コツコツと硬い足音が鳴る。氷で形成された階段なので当たり前か。


足を滑らせるなんて文字は私、雪の女神フロスには存在しなかった。



「もう、帰りましたよね…?」



氷の国アイシクル領の1番端。炎の国ヒートヘイズとの境目に近い場所にある氷の塔。


誰も近寄らない場所なのに1人だけ毎日のように来ているバカがいた。その名もイグニ。ヒートヘイズの王子だ。


何度も冷たく突き放しても懲りずに氷の塔に出向いては私を口説いてくる。今日はとある物語の一説を借りた文章で口説いていた。


私は外に誰も居ないのを確認して塔の扉を溶かしていく。氷で出来たこの扉は私以外には開けることが出来ない。普通の人間が触ったら全身が凍ってしまうだろう。例外を除いて。



「……本当に置いて行ったのですね」



扉の前にはいかにも手作り感のある本。その下には赤に金の刺繍が入っている綺麗なハンカチが敷かれていた。


凍っている地面にそのまま置いたら濡れてしまうという配慮だろう。屈んで私はその本を手に取る。



「本が可哀想なだけです」



誰に向けられたかもわからない言葉を呟いてから外の世界から閉ざすように氷の塔の扉を閉めた。また長い階段を登って最上階にある自室に戻る。


そういえばイグニが来るから窓を溶かしてしまっていた。私は手をかざして力を込めるとあっという間に氷が形成されて窓が出来上がる。これを毎日のようにやっているのだ。



「返事をしないのは失礼だからです」



また独り言が漏れてしまう。ため息をついた私は椅子に座ってイグニが置いて行った本を見つめる。


架空の獣、神獣について書かれた本。少しだけ気になってページを開くと綺麗な文字と下手くそな絵が描かれていた。



「これは……猫?そっちは……ゴミ?」



文字は誰でも読めるように書かれているくせして絵は破滅的に汚い。イグニは絵心が無いみたいだ。私は何を読んでいるのかと頭が混乱してしまって、勢いよく本を閉じ、テーブルの上に放り投げる。



「なんか、熱いです」



最近、イグニが来た後は体が熱くなる。ヒートヘイズの体質的に彼の体温が高いのだろうか。


それに従者も居たから高い体温2人分が氷の塔に来たことになる。体の底から熱くて、じんわりと広がっていく感覚が気持ち悪かった。



「ん?あれは」



パタパタと音が聞こえて外を見ると1羽の白鳥がこちらに向かってやってくる。足には何かがくくりつけられていた。


もしやと思って作ったばかりの氷の窓を溶かしていく。空いた場所から白鳥が入ってきて目の前のテーブルに乗った。



「アイシクルからの手紙ですか。お疲れ様です」



優しく手紙を取るとすぐに白鳥は飛んでいってしまう。もう少しここに居てくれても良かったのだけど。私は小さく畳まれた手紙を開いて中身を確認する。



『フロス姉様


ごきげんよう。体調などに変わりありませんか?早速ですが、明日氷の塔に出向きます。もてなしの準備をしておくよう。


ダイヤより』



あの子らしい手紙だ。ダイヤは私の妹であり氷の国アイシクルの現女王。わざわざここに出向くなんて何事だろう。私をからかいに来るだけではなさそうなのは確かだった。



「菓子の予備はあったでしょうか?」



近くの戸棚を見ると来客用の菓子が置いてあった。これなら誰かを買い出し行かせる必要はない。一応、女王の姉であり女神である私だけど人との交流は浅かった。



「………」



そして嫌でも目に入ってしまうイグニの本。もう読まないと思うから捨ててしまっても良いのだけど……。



「本が可哀想なだけです」



流石に貰って1日で捨てるのは気が引ける。私は本棚の1番端にイグニの本をしまった。



『雪女様!そんな所に閉じこもってないで、僕の手を取ってくれませんか!』



記憶にあるイグニの声がこだまする。それだけでまた熱く感じてしまった。私は手に氷の力を込めて首筋に当てる。早く冷えてくれ、涼しくなってくれという思いを込めて。


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