47話 アイシクル王族
「イグニ、止まってください」
「え?」
少し歩いた先で雪女様の足が止まるので僕も釣られたように動かなくなる。少し下を見れば氷が這いつくばっているのがわかった。
「おかしい。父上のフェニックスの炎でも溶けないなんて。地面に張る氷くらいあの炎なら溶けるはず」
「ええ。普通の氷ではない。これも氷花の力なのでしょうか」
スピードは遅くても氷は確実にヒートヘイズの草花を固まらせている。それは巨大な氷柱と言える物から広がっていた。
「…ダイヤ?」
「えっ?どうされましたか?」
「イグニはここで待っていてください。絶対に氷の中に入ってはいけません」
「雪女様!!」
僕の腕から柔らかい感触が消えたと思えば雪女様は颯爽と氷柱に向かって走り出してしまう。追いかけようと思っても目の前まで迫ってきている氷のせいで走り出せない。
本能が踏み込んではダメだと僕に伝えているのだ。そんな氷に足をつけて躊躇なく進んでいく雪女様。氷上を歩く姿はまるで神聖な雰囲気を出しながらの美しさが現れていた。
「絶対に来ては行けませんよ」
「はい…」
釘を刺すように雪女様は僕に伝える。そんな真剣に言われたら従うしかない。僕は黙って雪女様が巨大な氷柱に近づくのを見ていた。
「……やはり」
ポツリと呟いたと思えばその氷柱に手を当てる。僕は危ないと声を出そうとしたけど、その声は出ることがなく白い息に変わった。
雪女様は何かに耳を澄ませるように目を瞑って黙っている。僕が邪魔する隙間はない。根拠はないけど、勘がそう言っていた。
「この中にダイヤが居ます」
「えっ?女王が?」
「イグニ。地面の氷に触れないようにこの氷柱の反対側に周りなさい」
「わかりました」
すると雪女様は僕の方を振り向いて女王のことを教えてくれる。そして僕は雪女様が言った通りに反対側に行くと3つの氷の塊があることに気付く。
氷柱より小さいけれど、冷気を十分に纏っている氷。その中には大切な3人が囚われていた。
「な、なんで!?ヒダカ、ヒメナ、フレイヤ!どうして…!」
「踏み込んではいけません!」
「でも!」
「貴方まで氷漬けにされます。私だから入れる場所であって、氷に耐性がないヒートヘイズの者が入れば一瞬で凍てつくでしょう」
僕を雪女様の元へ送り出してくれた幼馴染。そして僕を守るために立ち向かってくれた騎士団長は氷の牢獄の中に入っている。
僕が何度呼びかけても返事はなく、まるでこの世界から遮断されているようだった。
「なら炎で…」
「やめなさい!貴方が消し炭になりますよ!?」
「でもこの3人は僕を助けてくれた人です。巨大な氷柱は無理でもこれくらいの塊なら溶かせるはず」
「ダメです!」
「助けたいんです!」
僕は両腕を凍っている3人の方に伸ばして力を込める。ただやりすぎると僕も3人も火傷してしまうから調整に神経を尖らせなければ。
しかし雪女様は勝手に僕が力を使うのを許せなかったのだろう。氷の上を滑るようにこちらへ来たと思えば強烈なビンタを僕にお見舞いした。
「いった…」
「自分の言葉に責任を持ちなさい、イグニ…!」
油断していた僕はその場に尻餅をついてしまう。すると雪女様は声を震わせて僕に怒鳴りつけた。驚いて見上げれば目を少し赤くしている雪女様が拳を強く握っているのがわかる。
「貴方がバカが付くくらいにお人好しなのは知っています。それでも…自分が深く傷を負うとこを何故進んでやるのですか!?」
「それは…」
ヒダカとヒメナ、そしてフレイヤは僕の友であり仲間だから。そう言いたかったのに雪女様の頬に流れた涙が見えて言葉が詰まってしまう。好きな人を泣かせてしまったことに僕は自分に対して失望した。
「戦争が終わったら私に求婚するのでしょう?ならば結果がどうであれ成し遂げなさい。貴方は軽々しくそんな大切な言葉を言う人なんですか…?」
「違います」
「これ以上炎を使えば外側から焼けて、いずれは内臓も焦げるでしょう。そうなってしまえば私の力をいくら使ったって助けられません」
「……はい」
「約束を守らないクズになりたくないのであればしばらくは使わないでください」
「……わかりました」
雪女様は涙ながらに僕に伝えてくれた。言い返せないほど僕の中に雪女様の想いが染み込まれたのだ。
涙を拭った雪女様は僕から視線を外してフェニックスを見る。釣られるように僕もフェニックスを見上げると、さっきよりも体の炎が増している気がした。
「そういえば、貴方もフェニックスでしたよね」
「えっ?」
「以前教えてくれた神獣です。イグニはフェニックスが好きだと言っていた。そして私は確か…」
「ユニコーンです」
「そう、ユニコーン。あの絵ではとても優雅には見えませんでしたが」
「あははは…」
「貴方の父も、フェニックスが好きなのですか?」
「それはよくわかりません。父上は自分の好みなどを話す人ではなかったので」
「……私も自分の両親の好きを知りませんでした」
雪女は僕に手を差し伸べてくれる。その手を掴むととても冷たくて反射的に離してしまいそうだった。しかし雪女様は僕の手を強く握って立ち上がらせる。
「この戦争は私の両親から始まったと言っても過言ではありません」
「どういうことですか?」
「先代の女王と王配はヒートヘイズをとにかく嫌っていました。私とダイヤもヒートヘイズは憎き相手と教えつけられるほどに」




