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【完結】雪女と炎王子の恋愛攻防戦  作者: 雪村
9章 歯車を止める氷
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44話 愛おしい想い人

この言葉を聞いて怒りに震えない人は居ないと思う。現に、グレイシャー公も顔を真っ赤にして青筋を立てていた。



「その顔も猿みたいだなぁ!」



僕は更に力を込める。炎が上手く出ないけど、体はじわじわと熱くなってきた。そして怒りを露わにしたグレイシャー公がもうひと蹴りを僕に入れようとした時……



「溶けろ!!」



僕の全身から炎が出て一瞬で扉と僕を刺していた氷柱が水となった。


感覚的に今までで1番火力が強い。その分負荷がかかるけれども、それを無視できるくらいに体は麻痺していた。


僕は炎を纏ったままグレイシャー公へ飛びつくように襲いかかる。咄嗟にグレイシャー公は氷の壁を作って僕を阻もうとするけど、僕の体から伝わった炎で高温になった剣の前では無力だった。



「クソ王子が!」



するとグレイシャー公は何かの液体が入った試験管をポケットから出す。あれは女王も飲んでいた液体。


僕は嫌な予感がして試験管を壊そうと手を伸ばすが、グレイシャー公が新たに生み出した氷の壁が手に当たって間に合わなかった。



「氷花の力を舐めるな!!」


「氷花…?」



聞いたことがある花の名前だ。確かアイシクル領だけに咲くとされている花。僕が氷花に意識が逸れたのがグレイシャー公は見抜いたのだろう。


思考から戦いに目を向けようとした時にはもう、僕の腹には拳が入っていた。その拳から氷が勢いよく広がり僕の炎は鎮火したように消えてしまう。


あの火力は短時間しか出来なかったため、無理に動かした体と炎は瞬く間に氷漬けにされてしまった。



「教えてやるよ。これはアイシクル領に咲く氷花と呼ばれる花の成分を凝縮したもの。飲めばアイシクル王族が持つ氷の力を最大限引き出し、更には倍増させる効果がある。例え神から与えられた血が薄くても雪の女神以上の力を得れるのだ」


「……だからアイスマンを」


「氷は形を作れる。しかしそれを動かすことは出来ない。でも神以上の力を引き出せれば可能だ。今の女王のご両親である先代の女王と王配が命を懸けて土台を作り上げた。それを現女王ダイヤが完成へと導いたのだ」



首から上は氷が張ってないからギリギリ息は続く。けれどこのままでは体の機能が働かなくなって意識を失ってしまうだろう。


もうここには助けが来ない。ヒダカもヒメナもフレイヤも、女王の相手をしているから。老医師にでさえこの場所に行くことは伝えてない。


もう終わりかもしれない。氷柱に刺さった時に出した炎は奇跡と言って良いくらいのもの。僕は最後の力を振り絞ったのだ。


今傷口も凍っているけど、きっと出血量も凄いだろう。ここの地面を見れば赤色がどれだけ垂れているかわかる。



「雪女様……申し訳ありません…」



以前夜の逢瀬で助けてもらった時、雪女様はここで死なれたくないと言っていた。でも僕はここで死ぬ運命なのかもしれない。


でも嬉しいと言ったら嬉しい。好きな人の近くで死ねるなんて片思いする僕にはこれほど良い条件はない。自分でも冷たさで頭がよりバカになってきている自覚はあった。それでも不思議なのは悪い心地がしないということ。


……これからヒートヘイズがどうなるかわからない。父上がこんな姿の僕にお怒りになられるかもしれない。ここで死んだ僕に雪女様に嫌われるかもしれない。



「……やだな」


「何をぶつぶつ言ってんだよ」


「一瞬、一瞬だけ、死んでも良いと思ってしまった。でもよくよく考えたら死にたくない。僕は放棄するのも、怒られるのも、嫌われるのも好まないからさ」


「自分の状況をわかっているのか?」


「勿論。だから色んな葛藤が僕の頭で戦っている」


「なら俺が答えを教えてやる。ヒートヘイズの王子イグニは死ぬ」


「………」


「ショックで声も出ないか」


「ハハッ。ハハハッ…!」


「あ?」


「残念!もうヒートヘイズの王子は居ない。耳を澄ませてよく聞け!僕は、ヒートヘイズ新国王のイグニだ!」



僕が言い放った宣言は氷の塔に響き渡る。それに応えるかのように雪が降り出した。


その雪は静かに舞うが不思議なことに落ちるスピードが速い。まるで今まで溜めていたものを一気に落とすかのようだった。



「本当に、大バカです」



冷たく冷静な声も、僕だけに聞かせてくれる慌てたような声も全てが愛おしい。その声は何度も聞いて何度も僕をときめかせた。氷の塔の扉が主を見送ろうとゆっくりと開いていく。



「私は氷の塊に閉ざされた。だから雪達が目指すべき場所を見失ったのです。その結果、これだけの量が舞い落ちる」


「な、何で…?何でフロス、様が?」


「イグニ。私の想い人の名を持つ者の炎が私を解き放ってくれました」



積もる雪を優しく踏みながら歩く雪女様。僕は首を後ろに動かして神々しく感じるその姿を目に焼き付かせていた。


雪女様が僕に手を向けると体を止めていた氷が破裂するように飛び散る。僕は力が抜けたように雪の中に倒れ込んだ。



「全く。こんなに地面を汚して。後で掃除してもらいますからね」


「勿論、です……雪女様……」


「何度も言ってますがその呼び方はやめなさい。私は雪の女神フロスです」


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