42話 両国のために
荒い息を吐いてはまた短く息を吸って、足を上げてはまた降ろしてを繰り返す。後ろの方では爆弾とカイロによる熱風で背中が熱く感じられた。
「雪女様…!雪女様!」
おかしくなったように僕は愛おしい人の名前を呼びながら氷の塔へ走る。疲れても強制的に走らせるために、鼓舞をしながら自分に鞭を打っていた。
あの3人は大丈夫だろうか。フレイヤは怪我してないだろうか。ヒダカとヒメナは戦いに参加できるのだろうか。
心配を始めてしまえば終わりがないくらいに考え込む。しかし信用したから僕は女王から離れたんだ。
雪女様の所に行ってこの戦争を止めてもらう。僕の予想では例え力で拘束出来ても、女王の強い信念は折れないと思う。次に僕が信じるのは雪女様だ。
僕は砦が見える所まで走って来れた。もう少し頑張れば雪女様の元へ辿り着ける。砦はアイスマンの激しい攻撃があるのか遠くからでも騒がしく感じた。
「イグニ様!?」
「えっ?」
すると聞いたことがある声が僕の名を呼ぶ。咄嗟に足を止めると炎帝の丘から誰かが大きく手を振っていた。確かその場所は傷を負った騎士達が運ばれる緊急治療所……。
「老医師か!」
「左様でございます!何故イグニ様がここに?」
「色々あったんだ!」
僕を呼び止めたのはフレイヤの体に氷が張った時世話になった老医師だった。彼がこの場所に任命されていたとは初耳だ。
確か医師達を選んだのはフレイヤ。きっと治療の経験が長い老医師を抜擢したのだろう。
「老医師、騎士達の負傷具合は?」
「予想したよりも少ないです。多少はこちらに運ばれましたが、あの火山の鳥のお陰でしょうか?今の所重症者はございません」
「良かった…。やはり砦を襲っているのは、氷の人間か?」
「そうです。ここに来た騎士に聞いた所、アイシクル側の人間数人が氷の力を使って変なものを出してきたと言っていました」
やはり数人ということは氷の力を使える王族の血が流れている者。どういう原理でアイスマンを生み出せるのかはわからないが……早くアイシクルの人間を止めなければ体力的な消耗でヒートヘイズが不利になるだろう。
けれど父上が出したフェニックスのお陰でアイスマンは溶けるか行動が不能になるかの2つだ。
その隙に戦い慣れている騎士達が斬りつけてバラバラにすれば気温で溶けてくれる。僕の予想ではあと少しは持ってくれるはず。
「老医師。ここに馬はいるか?」
「馬ですか?はい。2匹ほどございますが?」
「1匹借してくれ」
「ヒートヘイズにお戻りに?」
「いや、僕の女神に会いに行く」
「ん?女神…ってイグニ様!?」
「借りるぞ!」
僕は老医師の返事も聞かずに近くにいた馬に乗るとまた雪女様の所へ向かい出す。
「イグニ様ーー!その先はアイシクル領です!危ないですぞー!」
老医師は大声を出して僕の行先を止めようとするけど僕はそれを無視して馬を加速させた。ここら辺はまだアイシクルの人間は来ていない。
きっと砦の先にあるヒートヘイズの城下町や城を攻め入るつもりなのだろう。炎帝の丘が今は寂れた場所だということはアイシクルも知っているはず。だからフレイヤはここを治療所にしたのだ。
「相変わらず頭が冴えている」
フレイヤは僕が雪女様の所へ向かったことはわからない。きっと急に消えたことに戸惑っているはずだ。
ヒダカとヒメナが上手く誤魔化してくれると思うけど……彼女には本当に迷惑をかけてばかりだな。
戦争が終われば僕はヒートヘイズの新国王になる。父上は炎の祠に籠る時、僕が好きな人と結ばれろと言ってくれた。しかしそれを歴史と血は許すのだろうか。咄嗟に僕は首を振って目の前の景色に集中する。
こんなことを考える暇があるのなら1秒でも早く氷の塔に行かなければ。例え氷の塔で体が冷えてしまってでも僕は戦争をやめさせる使命がある。
これはヒートヘイズのためでもあり、アイシクルのためでもあるのだ。
段々と空気が冷え始めるのがわかる。ここまではフェニックスの炎も届かないようでアイシクル特有の氷の木々や草花は溶けることなく生きていた。
その中でも一際目立つのが、花びらが氷で出来ている花。僕は花の色に違和感を持ちながらも馬を走らせて雪女様へと近づいていった。




