41話 初恋の走馬灯
「アイシクルの女王拘束完了しました。フレイヤ様」
「ありがとうございます。……女王、貴方に逃げ道はもうありません。大人しく降参してください」
「………」
「もう戦う力も残ってないのは見ただけでわかります。火山にいるフェニックスも時間が経つごとに炎の力を増している。これ以上、アイシクルの侵略は無理です」
「お姉様…が、います…わ」
「お姉様?」
ヒダカさんとヒメナさんは拘束用の縄を両方から持ってもらい女王を動けなくする。私はアイスマンに掠られた切り傷を手で拭いながら白旗をあげるようにと女王に話し始めた。
しかし女王は小声でぶつぶつと言いながら小さく抵抗を始める。その姿は何かに取り憑かれているのかと思ってしまうほど不気味だった。
「フロス、お姉様なら……あんな鳥…すぐに…」
フロスという名はアイシクルでは1人しにいない。雪の女神フロス。焔の神と対になる存在だ。
「お姉様……お姉様は私を助けてくれる…。あんな男に、情なんて湧かない…。だって、私達は姉妹だもの…」
「兄貴。気絶させようか?」
「それはやめておきましょう。女王の声が無い限りアイシクルの人間は戦いをやめない。ヒメナの気絶方法では当分目を覚さないでしょう?」
「うん」
一体どんな気絶をやろうとしているのか。ヒダカさんは淡々と喋っているのが不思議で仕方ない。やっぱり長年の付き合いは慣れを作ってしまうのだろう。
「コホン。とりあえず、強制的に砦へ女王を連れて行きましょう。女王が拘束された姿を見ればアイスマンによる攻撃も収まるはずです」
「いや……いや…」
「女王。貴方がどういった理由で攻撃をしたのかわかりません。事情聴取はこの後聞きます。しかし貴方は同じ人間を殺そうとしたのですよ。まだ直接手を出してなくても手を伸ばしてしまったらそれはもう罪です」
「何を勝手に正義感を…。あんた達は知らない…。最初は、ヒートヘイズが始まりだったこと…を」
女王は震えながら絶望の瞳を私に見せる。それは怯えているようにも、狂っているようにも捉えられた。
「アイシクルの、氷は、年々溶け出している…。あんた達のせいだ…。やっぱり、お父様とお母様が言っていたことは……間違ってなかっ……た」
「あ、自分から気絶したよ」
「熱にやられたのでしょうか?フレイヤ様、どうされますか?」
「砦に連れて行きましょう。ここから見る限り、まだ攻撃は終わってない。早く女王のこの姿を見せなければ。……えっ?」
「フレイヤ様?……っ!」
「な、何これ!?」
自分でも何が起きたのかわからない。ただ私の目に映っている情報では、気絶したはずの女王の体から氷が出てきて近くにいた私達を捕まえるかのように這いつくばってくる。
逃げる暇もなく私達はあっという間に下半身を氷漬けにされてしまった。それでも氷は止まることなく上は上へと上がってくる。
「やばい顔まで来る…!?」
「だ、ダメです。手も動かせません」
「そんな……くっ、何で」
近くにいるヒダカさんとヒメナさんも既に首まで氷が張っていて苦しそうな顔をしている。
助けたいけど、私も同じ状況だった。遂には顔にまで氷が上がってきて体全てを凍らせる。
「イグニ、王子…」
女王が地面に倒れ込む音がした。そして私達は口も思考も動かせないまま、氷の塊とらなってしまったのだった。
ーーーーーー
何処かに閉まってあった記憶の引き出しが小さく開く。
「君、新しくここに来たの?」
「あ……」
風が吹く土地で産まれた私、フレイヤは商人だった両親に7歳まで育てられた。でもそんな両親は売るための薬草を積みに行った時、悪い風が崖の下へと両親を連れ去ってしまったのだ。
それがきっかけで行く場所も無くなった私は彷徨い歩き続けた結果、炎の国ヒートヘイズの騎士団の方に拾われる。
帰る場所も無いし親も死んだと伝えれば騎士の人は面倒臭そうに頭を掻くと私をヒートヘイズの城へと連れて行ってくれた。
手を引かれて連れて来られた私がヒートヘイズの城で1番最初に会った人物は当時騎士団長を務めていた方で、年配のおじさんだった。
「名前は?」
「…フレイヤ」
「フレイヤ。今日から君の居場所はここだ。これからはヒートヘイズの見習い騎士として生きるといい。大丈夫。ここは優しい大人ばかりだからね」
初めて嘘をつかれたのはこの時だったと思う。実際に優しかったのは騎士団長だけで、他の大人は子供で女の私を虐めて見下すだけだった。
「泣くなら辞めちまえよ」
「うるせぇんだよお前」
「騎士にならなくたって女なんだからそこら辺の男相手していれば生きられるだろ?」
「ばーか色気もクソもない子供相手に何言ってんだよ」
「それもそっか」
気持ち悪く下品な笑い声が私を傷付ける。ああ、これが言葉の刃物なんだなって実感した。ヒートヘイズに来て2週間。もう既に感情と目の光は失いつつあった。
「ねぇねぇ」
でもそんな私にも王子様が現れる。
「君、新しくここに来たの?」
「あ……」
見た感じ私よりも年下の男の子。小さくて目がぱっちりしている。かっこいいというよりも可愛い。そんなそんな男の子は私を見つけると嬉しそうな顔をして近づいてきた。
「僕イグニ、4歳!よろしくね!」
4本の指を立てて私に見せつけるように手を前に出す。笑顔を見せるその姿は太陽のようだと思った。でも私は頷くだけで返事を返せない。
むすっとした表情を変えない私にイグニは怒っているのかと勘違いしたのか一気に眉を下げて目を潤ませる。泣いてしまう。
そう思ったけど私にはどうすることもできずに自分の手を握りしめた。しかしイグニは泣くこともなく目を擦るとまたニッコリと笑った。
「女の子の前で泣いちゃダメだよね!」
この子は強い。何も知らない7歳の私でもそう思った。
「君名前何?僕はイグニ!」
「…フレイヤ」
「フレイヤちゃん!今から一緒に遊ぼ!」
「え…でも」
これから訓練がある。行かないとまた大人に怒られてしまう。
「ごめん。今から…」
「そっかぁ。じゃあ今度遊ぼ!僕お外で遊ぶのも好きだし城の中で遊ぶのも好き!あ、ヒダカくんとヒメナちゃんとも遊ぼうよ!」
早口で一気に言われた私は戸惑うことしか出来ない。するとイグニは私の両手を優しく掴んでくる。
訓練でボロボロになった手は綺麗なイグニの手を汚してしまうのでは無いかと思い手を払おうとするけど、イグニの力は強かった。
「約束の握手!」
その瞬間、私の中で暖かい風が吹く。それは優しすぎて心に嫌というほど染み渡った。これが……私フレイヤの初恋の瞬間だ。




