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【完結】雪女と炎王子の恋愛攻防戦  作者: 雪村
1章 炎王子と雪女
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4話 意外と一途な炎王子

「ああ!雪女様!貴方は何故雪女様なのですか?」


「ブフッ」



後ろからヒメナが吹き出し笑いをした音が聞こえる。しかしそれを無視しながら今日も氷の塔に僕はやって来た。



「また来たのですか?」


「何度でも来ますとも!雪女様のためなら!」 


「まずはその呼び方をやめなさい!!」



今日も塔の上から美しい声が聞こえる。綺麗な声を一言も聞き逃したくないので、ヒメナが一緒に来る日は絶対喋るなとキツく言ってあった。


なので実質僕と雪女様の2人きり。このワードだけでご飯2杯は食べれそうだ。



「ではこうしましょう!実は氷の国に伝わる伝承から僕にピッタリの呼び名を見つけたのです!雪女様だけが呼べるこの名を!是非聞いてもらいたい!」


「………何ですか?」


「カグツチ!」


「おかしいでしょう!?何故私が妖怪の名で貴方が神の名になるのですか!」


「ほぅ、カグツチは神の名前だったのですね。てっきり雪女と同じ部類の名と…」


「勉強が足りません!出直して来なさい!」


「また来てもよろしいのですね!?」


「ちがっ、そう言う意味では」


「ああ!今日はなんて良い日だ!また雪女様とお近づきになれた!いつかこの氷の塔さえも溶かす愛を間近で伝えれるように僕は頑張ります!」


「通じない…」



僕の心臓はいつになく高鳴る。だって雪女様自ら誘ってくれたのだ。今日はお誘い記念日にしよう。ヒートヘイズに帰ったら早速手帳に記入しなければ。



「ではお近づきの印に塔の前にこれを置いておきます。是非手に取ってみてください」


「………」



氷の国アイシクルでは妖怪や神々のおとぎ話が広まっているが、炎の国ヒートヘイズでもそういうのがあった。


それは架空の獣と呼ばれる存在。民達は神獣と呼んでいた。


角が生えた馬や鳥と狼のような獣が合体した姿、他にも沢山神獣がおとぎ話に出てくる。それを全て手書きでまとめたイグニ特製神獣マニュアルを氷の塔の扉前に置いた。



「濡れないようにハンカチを敷いておきます。このハンカチは雪女様にあげますので好きに使ってください」



もう雪女様は疲れてしまったのか。返事は返ってこない。せっかく寒さに強いヒメナと共に来たけど、相手が疲れているのならお開きにする他なかった。



「いつか、この扉が僕の前で開くことを願っています」



氷の塔の唯一の扉は氷漬けにされていて開くことはない。きっと一瞬でも触れたら体に霜が立ってしまうだろう。


だからと言ってヒートヘイズの王家の力である炎で溶かすわけにもいかない。この扉は無理矢理開くのではなく開いてもらうためのものだと僕は思っていた。



「時間のようです。また来ます」



僕は赤と黒のマントを揺らして後ろにいるヒメナの所に戻る。早い退散にヒメナは首を傾げたが、俺は「行くぞ」と言ってアイシクルの領から出る準備をした。



「…ん?」



今、氷の塔から音がした気がする。振り返ってみるけど特に変わりない。不思議に思いながらも僕はヒメナと共にヒートヘイズに帰ったのだった。



ーーーーーー



「イグニ様ってさ、意外と一途だよね」


「意外ととは何だ意外ととは」


「だーって幼馴染だからわかるけど、初めて会った人だと絶対チャラ男に思われるよ」


「そんなに僕は派手じゃないぞ?」


「雰囲気雰囲気」


「目の治療を勧める」


「イグニ様!?」



全くヒメナは何を言っているのだか。城の廊下を歩いていると後ろで急にそんなことを言ってくる。


流石にここでは雪女様の名前を出さないけど、ヒメナが言うのはそれ関係だろう。しかしそんなチャラ男雰囲気出しているかな…?



「あまりこんな事を聞きたくはないが」


「何ですか?」


「じょ、女性はどんな男に惚れるんだ…?」


「ブハッ」


「笑うな!真剣だぞ!?」



またこいつは吹き出し笑いをする。そんなにおかしい質問だっただろうか。顔を少し赤くしながら僕はヒメナの頬に手を伸ばして引っ張り上げる。



「いひゃいでひゅ」


「なら笑うな。絶対に笑うな」


「ふぁい」



僕の発言に笑えるのはたぶんヒメナくらいだ。幼馴染とはいえ肝が座り過ぎている。ヒメナの肝がニヤニヤしているのが想像できた。



「いや〜可愛いですね。イグニ様は」


「おい」


「まだ笑ってませんよ!」


「まだってことは後で笑うつもりか?」


「違います!断じて違います!」



ヒメナは慌てて両手を横に振って同時に首も動かす。騒がしくて忙しいやつめ。



「随分賑やかだな」



廊下で立ち止まってヒメナと話していると奥から低い声が聞こえてくる。僕とヒメナは同時に体を固めてその声の主を見た。



「父上…」


「訓練は終わったのか?」


「はい」



僕の父、炎の国ヒートヘイズの現国王は腰に下げた剣を揺らしてこちらにやって来た。すぐさまヒメナは膝をつき頭を下げる。本来なら僕にもこんな風に敬愛すべきなのだが……。



「どれくらいの精度になった?」


「まだまだというところです」


「訓練する環境が悪いのでは?」


「炎の国ヒートヘイズと氷の国アイシクルの境目は気温が両国の中間になります。どっちの特徴もない気温の方が訓練にはやはり最適かと」


「そうか」



咄嗟に思いついた言い訳は結構良い感じに誤魔化せた気がする。父上の目は鋭く嘘も見抜かれそうだけど、僕の言い分に納得したのか頷いた。



「フレイヤを妻にする前にはある程度使いこなせるようになれ。それが次期国王として、婚約者としての礼儀だ」


「はい」



父上はそれだけ言うと玉座の間に向かって歩き出す。大きな体は炎に佇む岩石のようだと民達は言っていた。


その言葉通り父上は厳格な人だ。緩い感じの僕とは全く違う。



「ヒメナ、行くぞ」


「はい」



今までからかっていたヒメナも静かになる。それくらい父上な圧倒されたのだ。僕は自分の父親に会っただけなのにドッと疲れが出てしまう。



「いや。今あったのは現国王だ……」



ああ、雪女様に癒されたい。緊張で熱くなってしまったこの体を冷やして欲しかった。

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