24話 甘い物好きの女騎士
「イグニ王子、それは…」
「篝火クレープだ」
「ヒートヘイズの名物ですよね?なぜそれを」
「これは僕の従者であるヒメナからのお見舞いらしい。まぁ、お見舞いというのを利用して自分が食べたいから買ったと思うから遠慮なく食べてくれ」
「ありがとうございます」
少し申し訳なさそうにするフレイヤ。やはり予想通りの反応だ。
「王道の生クリームと代表のイチゴ味だ。どっちが良い?」
「イグニ王子が好きな方を選んでください。私はどちらでも構いません」
この返事も予想通り。それなら半分ことも思ったけど、クレープを半分に分けるのは難しい。
そう考えるとヒメナにはもっと考えて買ってくるようにと言っても良さそうだ。別に1人で食べるのなら良いけどお見舞いの品となるとな…。
「これはフレイヤへの見舞いの品だ。フレイヤが選んでくれ」
「しかし」
「生クリームとイチゴ、どっちが好きだ?」
「……生クリームで」
僕が真剣に言うものだから断れなくなるフレイヤ。彼女が選んだのは王道の生クリーム味だった。僕はそっちを渡して自分はイチゴ味の篝火クレープを持つ。
フレイヤはたぶん僕が口を付けるまで食べないつもりだろう。真面目過ぎるフレイヤの強い視線を感じながら僕がクレープに口を付けると甘酸っぱい味が広がった。
「うん、美味い。久しぶりに食べた。フレイヤも食べてくれ。早めに食べないと美味しく無くなるぞ?」
「はい。では頂きます」
フレイヤもやっと食べてくれる。何だかホッとしたのも束の間、僕はクレープを食べるフレイヤを見て飲み込むのを忘れてしまった。
僕の目の前でベッドに座るフレイヤはクレープの甘さに頬を緩ませているようだ。そんな表情を初めて見て不意に心臓が跳ねる。
「とても美味しいです。後日、イグニ王子の従者様にお礼を言いに行きます」
「あ、ああ。ヒメナも喜ぶと思う」
自分の感情を誤魔化すようにクレープに齧り付く。無表情がデフォルトのフレイヤが笑うとこうなるのか。微笑むことはあったとしてもクレープを食べているフレイヤはニコニコと笑っていた。
というと甘い物が好物?それともクレープが?考えながら食べていれば不意に僕の名前を呼ばれる。
「どうした?」
「失礼します」
「な、何を?」
するとフレイヤは僕に手を伸ばして顔を近づける。この展開は、まさか…。そう思って身構えているとその手は僕の唇を撫でフレイヤの元へ帰って行った。
「クリームが付いていました」
「え…あ、ありがとう」
「いえ」
なんだ、クレープのクリームを取ってくれただけか。またキスされるのではと思い焦った。フレイヤは手に付いたクリームを近くにあった布で拭う。流石に自分の口には含まない。少し安心した。
「明日、国王様が帰られるのですよね?」
「そうだ。予定では昼間に帰るらしい。何事も無ければ良いのだが…」
「私も明日には復帰する予定でいます」
「復帰って、早すぎないか?もう少し休んでもらって良いんだぞ?」
「イグニ王子のお陰で体は元通りになりました。この2日は安静にと言われて休んでいただけなので」
「そうか。フレイヤが自分でそう言うのなら止めるつもりはない。でも無理はしないでくれ。あの時のように氷が体に張ったのはフレイヤが初めて。つまり前代未聞なのだから」
「心に留めておきます」
合計3日の休養期間は流石に短過ぎる。でもフレイヤにそれを伝えたとしても素直に「ではまだ休みます」とは言わないだろう。
きっと騎士団長としての責任が彼女の真面目さを底上げしている。何だかまだヒートヘイズの次期国王としての自覚が緩い僕が恥ずかしくなってきた。
「でもご安心ください。大きな事件がない限りは私は前線には出ないので。そろそろ周りへの引き継ぎを本格的に開始するつもりです」
「そうか……」
一瞬忘れかけていたけど、フレイヤは僕の許嫁であり王妃となる予定だ。いずれ辞める身として騎士団長の引き継ぎは必ずしなければならない。
何をどうするのかは王子である僕はわからないけど色々と面倒そうだ。でも引き継ぎが始まるということは僕が覚悟を決めなければいけないと同じ。全ては今日の夜に決まる。
「ん。ご馳走様。僕はそろそろ執務室に戻るか。色々と父上の仕事が溜まっていてな」
「ご苦労様です。わざわざありがとうございました」
「ゆっくり食べてくれ。それでは失礼する」
僕は最後ひと口を飲み込んでフレイヤから立ち去る。彼女は若干無表情に戻りつつあった。
「イグニ王子」
「何だ?」
「火のご加護がありますように」
「ありがとう。フレイヤも」
そう言って個室の扉を閉める。治療室から出れば一気に力が抜けると思っていた。しかし実際は力なんて入ってなかったようで何も変わりない。
フレイヤの笑顔を見たからなのか。それともフレイヤに心を開き始めた?自分の気持ちさえもわからなくなってしまうくらいに僕の脳内は渦巻いている。
それでも今日の夜は1人で氷の塔に向かう。雪女様が待ってくれているかはわからない。それでも僕は1%の賭け事に手を出してしまうのだった。




