14話 黒色
「雪女様」
「はい」
「すみません!答えられません!!」
「うるさっ!?」
やっと口を開いたと思えば私の提案を拒否するもの。しかしあまりにも大きな声だったので咄嗟に出たのはうるさいの言葉だった。
「こ、答えられない…?」
「すみません。ヒートヘイズの王子として国王である父上に反することは出来ないのです」
「……アイシクルの氷の塔に来ているくせに?」
「うっ、痛いところを突きますね。でも僕達の逢瀬は2人で行われているものなので」
「貴方と逢瀬なんてしたことありません」
「では今から逢瀬としましょう!」
「だからうるさいです!」
何度も響くからと注意しているのにこの人は…!怒るどころかそれを通り越して呆れてきた。
「はぁ、言う気は無いのですね」
「ええ。雪女様には言えません。なので今から独り言を始めます」
「ん?」
「んん゛!最近ヒートヘイズの炎帝の丘という場所が凍ってしまったんだ。ちょうど炎帝の丘はアイシクル領に近い場所にあってね。やはりアイシクルが何かしたのかとヒートヘイズは頭を悩ませているんだよ。……独り言です」
私は吐こうとしたため息を飲み込む。そんなことがあったのは全く知らなかった。ヒートヘイズ領に氷が侵入?
雪の女神の力を持ってでもそんな違和感は感じ取れなかった。そもそもヒートヘイズ領は範囲外だ。炎帝の丘という所は初代ヒートヘイズの国王が神から炎の力を授けられた場所。確かにアイシクル領に近い。
「でも不思議なんだよ。氷はアイシクル領から伸びているのではなくて、地面から突き出るような形で炎帝の丘の石碑が凍らされていたんだ。……独り言です」
それならなお感じ取れない。氷が侵入する形なら少しでも気付くはずだ。地面から突き出る形…氷を操れる王族の誰かが炎帝の丘で力を使った?
となると誰が?例え少なくても王族の血が混じっていれば氷は操れる。時間や強度は女王であるダイヤや雪の女神の私よりは少なく弱いけれど。
「雪女様?」
「あっ、いいえ。独り言は終わりましたか?」
「はい。失礼しました。よく出てしまうんですよ独り言」
「そうですか」
「それにしても氷の塔はやはり寒いですね」
「氷ですから」
「僕は炎の力を持っているので多少は寒さを凌げますが…。ヒートヘイズの民であればここに入った時点で倒れてしまうでしょう」
私がその場から動くなと言ったからだろうか。氷の床の音が鳴ることはない。指示通りイグニは1歩も動いてないようだった。
「私も独り言を少し」
「僕のことはお気になさらず」
「ええ」
私はコクリと一旦唾を飲み込んだから深呼吸をする。
「き、きょ、今日は上下とも…黒です」
「黒?何が…」
「独り言です」
「そうでした」
自分でも何をしているのかわからない。でもさっき確認したことを告げたのは教えてくれたお礼だ。男ならすぐに勘付くだろうと思ったけどイグニはよくわからないような声を出している。
私は急に恥ずかしさが湧き上がって立ち上がると塔の下層にいるイグニに声を飛ばした。
「も、もう良いです!帰りなさい!」
「ええ!?まだ僕はお話しできます!」
「私は十分です!どうせまた来るのでしょう?」
「勿論!また2人でお話ししましょう!」
「2度と入れません!帰りなさい!」
イグニはケラケラ笑ってから氷の塔を出ていく。そしてすぐさま2度と入れないように氷を扉に張らせておいた。
私は逃げるように自室に入って熱さを冷ます。やはりイグニをここに入れるべきではなかった。体も心も熱い。
氷の塔の温度も結構上がってしまっただろう。私は力を操って塔の中全体を寒くする。これで私の体も冷えてくれると良いのだけど。
「とても良い時間だったぞ!ヒメナ!」
「良かったですねぇ〜」
外ではイグニと従者がヒートヘイズに帰っていく。外側の温度を下げるのはあの2人が離れてからにしよう。きっとこの場で体力も消耗しているはずだから。
「いつからこんな性格になったのでしょうか…?」
そんなのわかりきっているのに自分に問いかけてしまう。アイシクルに居た頃は静かなる王女と呼ばれていたっけ。それが今では仲の悪い国の王子を相手に感情を曝け出してしまっている。
「よりによって下着の色を言うなんて!」
そして最大の後悔は婚約者でもない男に自分の下着の色を言ったことだ。あの時の私は何を考えているのかと殴りたくなる。
「絶対に気付くな…絶対に勘付くな…イグニ」
氷の塔を出る前は黒の言葉に理解が出来ていなかった。それを墓場まで持って行ってほしい。
もし意味をわかってしまったら……脳を凍らすしかない。私は自室のベッドに行儀悪く飛び込んで枕に顔を埋めながら叫んでいた。




