第二章 運命の出会い(1)
時は少しだけ遡る。
異世界から聖女を召喚したアルエライト王国だったが、依然として魔力溜りの浄化には至っていなかった。
そうこうしているうちに、隣国のデュセンバーグ王国にも被害が出始めていたのだ。
デュセンバーグ王国は、何度もこの魔力災害に共同で対処しようと話を持ちかけたが、色よい返事は返ってはこなかった。
返事はいつも決まって、「我が国の問題は我が国で解決する」と言うものだった。
しかし、ある時から返事の内容が変わったのだ。
その内容は、「浄化の術を得た。じきに魔力溜りは浄化される」と言うのもに変わっていた。
しかし、一向に改善される兆しがなかったのだ。
それどころか、国境を越えて、デュセンバーグ王国にまで、濁ったマナが流れてくる始末だった。
そこで、デュセンバーグ王国は、使節団を派遣することにしたのだ。
使節団の団長に選ばれたのは、ジークリンデ・デュセンバーグ。
彼は、デュセンバーグ王国の第三王子だ。
ただ、ジークリンデはそれだけの男ではなかった。
今年、十八歳になるジークリンデは、一流の冒険者という肩書も持っていた。
剣はもちろん、魔法の腕も立った。
ジークリンデは、美しい金の髪を男らしく短く切り、海を思わせる深く青い瞳には強い意志が宿っていた。
筋肉の程よくついた肉体は、日に焼けていてさらに男らしさを周囲に見せつけていた。
そんなジークリンデが率いる使節団がアルエライト王国に到着した。
しかし、到着した晩、歓迎の舞踏会が開かれたが、魔力災害についての話し合いが行われることはなかった。
ジークリンデは、何度も宰相に国王への謁見を申し出たが、忙しいと一蹴された。
そのたびに、宰相はこう言ったのだ。
「すでに状況改善のために動いてます。第三王子は、ここでゆるりとお過ごしくださればいいのです」
宰相の言葉に何の説得力も見いだせないジークリンデは、怒気を孕んだ声で返す。
「なら何故、未だに魔力溜りが浄化されない! 現在そちらが行っているという施策をきちんと分かるように説明すべきだ」
ジークリンデがなんどもそう言って宰相を問いただすも一向に埒が明かなかった。
そんな状況が三日ほど続いた時、ジークリンデはあることを実行することにしたのだ。
それは、冒険者としてのスキルを発揮し、状況を探るというものだった。
本来であれば、そんなことをすれば国際問題になるが、先に正式な使節団であるジークリンデ一行を無下に扱ったのはアルエライト王国の方だ。ならば、こちらがどんな手段を用いようとも文句を言われる筋合いなどないというジークリンデの考えの下行われたのだった。
流石は超一流の冒険者であるジークリンデ。
誰にも悟られずに、城内を探り出したのだ。
はじめは、深夜に行動していたが、アルエライト王国の警備の甘さに堂々と日中に行動するようになっていた。
兵士の目をかいくぐってジークリンデが得た情報はいくつかあった。
その中でも、異世界から聖女を召喚し、その女性に魔力溜りを浄化させるという情報に、ジークリンデは驚きを隠すことができなかった。
ただし、こちらに召喚されたばかりで力の使い方を理解していないという話で、澱んだマナの浄化には膨大な時間を要するということだった。
さらには、一度浄化の力を発揮すると、数日、酷いときには数週間ほどは力を使えなくなるのだという。
その話を聞いた時、ジークリンデは呆れてものが言えなかった。
それはそうだろう、一刻を争うような状況で、そんな悠長なことをしているアルエライト王国のやり方が可笑しくてしょうがなかった。
そして、その召喚された聖女の聖女たり得ない非常識な行動の数々に頭が痛くなった。
その女性は、自分の力が必要なものだと理解しているようで、それをいいことに我儘、贅沢三昧の日々だという。
それだけではなく、見目のいい男を部屋に連れ込んで毎晩大人の遊びに興じているのだという。
女性が何をしようともどうでもいいが、だれかれ構わずに連れ込んでいるというのだから、ジークリンデが呆れてものが言えなくなるのも仕方がなかった。