第六章 家族
志乃がアルエライト王国が滅んだことを知ったのは、ジークリンデたちがすべての後処理を終えた時だった。
その話を聞いた時、一瞬明里のことを思い出したものの、何も感じない自分がいたことにショックを受ける。
そんな志乃の気持ちにいち早く気が付いたジークリンデは、志乃を辛抱強く慰めたのだ。
志乃も、そんなジークリンデの気持ちを知り、もう終わったことだと考えないようにすることにしたのだ。
それでも、この世を去ってしまった人々の冥福を祈り花を捧げることはした。
志乃が、アルエライト王国が滅亡したと知った数週間後、ジークリンデが沈んだ表情で志乃に聞いたのだ。
「シノ……。アルエライト王国が滅んだ今、完全に君をこの世界に呼び出した術式は失われてしまった。今更こんなことを言うのは卑怯だと思うが、それでも言わせてほしい」
そう言って、ジークリンデは心に秘めていた思いを口にしていた。
「君には、帰る方法はないと言った。だけど、君が望むならなんとしてでもその方法を見つける……。俺は、君に辛い思いをさせることだけは絶対にしたくないんだ」
ジークリンデのその言葉を聞いた志乃は、アルエライト王国が滅んだと聞いた時よりもショックを受けることとなった。
喉の奥が苦しくなって、無意識に涙が溢れた。
呆然とした表情で涙を静かに流す志乃を見たジークリンデは、慌てる。
「シノ? すまない。泣かないでくれ……」
「ジーク……。どうして急にこんなことを? もしかして、私……要らなくなった?」
志乃のその言葉にジークリンデは、衝撃を受ける。しかし、すぐに誤解だと全力で説明をする。
「違う! ずっと傍に居たい! 俺にはシノが必要だよ!!」
「なら、なんで!!」
「ごめん。ずっと見ないふりをしていたけど、シノには元の世界に家族だって、友人だっていたはずだ。だけど、急にこちらに呼びだされて……。今まで俺の都合を押し付けて、志乃の気持ちを知ろうとしなかった。もし帰りたいというのなら俺はその方法をどんなに時間がかかろうとも絶対に探し出す」
ジークのその言葉を聞いた志乃は、火が付いたように泣いてジークリンデに縋っていた。
「バカバカ!! こんなにジークのこと好きにさせておいて、今更離れるなんてできないよ!!」
志乃の叫びを聞いたジークリンデは、その小さな体をぎゅっと抱きしめていた。そして、愛おし気に言うのだ。
「ああ。俺も一生離れない」
「なら、なんで?」
「だから、君が戻るという言うのなら、俺もついていく」
「え?」
「ちゅっ。離れないって言ったろ。君が帰る場所が俺の居る場所だから」
ジークリンデの覚悟の籠った瞳を見た志乃は、驚きに目を丸くさせる。ジークリンデが言ったことは、志乃のために何もかもを捨てるということだったのだ。
その覚悟が嬉しく感じた志乃は、初めて自分からジークリンデにキスをしていた。
ジークリンデの両頬に手を添えて、顔を近づけさせてからそっと触れるだけのキスを贈る。
「ちゅっ。好き。ジークが好き。だから、私はこの世界でジークと家族になりたい」
志乃の言葉と行動に目を丸くさせたジークリンデは、すぐに微笑みを受けベていた。
そして、お返しというには激しいキスの雨を降らせたのだ。
「ああ、シノ。愛している。シノを大切にする。幸せにするから、俺こそ、シノと家族になりたい」
「うん。ジーク、私も愛してます」
「シノ……」
「ジーク……」
こうして、思いを一つにさせた志乃とジークリンデは、この世界で本当の家族となったのだ。
人々は知らない、デュセンバーグ王国にいる聖女の存在を。
そして、その聖女は人知れず、国を豊かにしていくが、聖女本人もそのことを知ることはなかった。
そんな聖女は、この世界で得た伴侶に守られ愛されて、幸福に満ちた一生を送ることとなる。
『聖女召喚に巻き込まれた挙句、ハズレの方と蔑まれていた私が隣国の過保護な王子に溺愛されている件』 おわり
最後までお付き合いいただきありがとうございました。




