第五章 聖女とその眷属(2)
アルエライト王国が崩壊する少し前。
明里は、もう何もかも終わりだと頭を抱えていた。
数か月前までは、明里をチヤホヤしていた者たちはもうどこにもいなかった。
誰しもが、明里に「早く浄化をしろ」とうるさく言ってきたのだ。
だが、明里はこちらに召喚されて半年ほどは使えていたはずの力を突如失っていたのだ。
それは、志乃がデュセンバーグ王国に行ったためだということを明里は知らない。だからこそ、「調子が悪い」「あんたたちがうるさく言うから、力がうまくコントロールできない」などと言って、部屋に引き籠る日々を送りながら周囲を騙していたのだ。
しかし、数日前、アルエライト王国で一番大きな商業都市が突如として、壊滅したのだ。
それは、穢れたマナの蓄積が限界に達し、大爆発を起こしたのだ。
都市を中心に周囲数百キロは一瞬で不毛の地となったのだ。
それを皮切りに、次々と主要な都市が魔力暴発によって灰燼に化したのだ。
そんな知らせを聞いた明里は密かに王都を逃げ出していた。
こちらに来てから、王城から一歩も出たことのない明里は、混乱に乗じて王城を脱出していたのだ。
しかし、右も左も分からない明里は、逃げ伸びたと思った先で命を落とすこととなる。
それは、本当に一瞬のことだった。
人目を避けて薄暗い路地を足早に駆けている時だった。
足元に泥溜のようなものがあったが、飛び越えることはせずに走り抜けようとしたのだ。
明里が泥に足を踏み入れた時だった。
泥に踏み入れた方の足が、ずぶずぶと沈んでいったのだ。
驚いた明里は、懸命に足を引き抜こうとしたが無駄だった。
命を危機を感じ、大声で叫ぶ明里。
「だ、誰か!! 誰か助けて!! あ、足が、足が!」
しかし、そんな明里の声は誰にも届かなかった。
焦れば焦るほど、沈んでいくのだ。そして、気が付いた時には首まで泥に浸かっていたのだ。
明里が何かおかしいと思った時には、頭の先まで泥に浸かっていた。
そして、明里の全身が泥に沈んだ少し後、その場所が爆発していた。
実は、明里の沈んだ場所は、魔力溜りだったのだ。
明里という異物を飲み込んだことで、魔力溜りは、大爆発を起こすこととなり、それが引き金となり、次々と魔力暴発が起こる。
アルエライト王国は、連鎖的に爆発を起こし、数日で滅んだのだ。
魔力暴発によって、停滞していたマナは、通常の流れを取り戻すこととなった。
穢れも爆発によって薄まり、正常なマナの流れを取り戻した今、数十年ほどで自然浄化がなされることだろうと周辺諸国は結論を出した。
しかし、人が住めるようになるまでには、数百年は掛かるとも。
こうして、アルエライト王国は、大陸上から完全に消滅したのだった。
それとともに、聖女召喚という儀式を行うための知識も術式も同時に失われ、今回の騒動で聖女召喚が行われていたという事実も忘れ去られることとなったのだ。




