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第三章 デュセンバーグ王国へ(9)

 想像の中の自分が逮捕される場面が頭をよぎった志乃は、力いっぱいジークリンデの胸を押していた。

 突然のことに驚くジークリンデは、焦りすぎて嫌われたのだと思い、狼狽えながらも言い訳を口にしていた。

 

「いや、違うんだ。いや、違わなくもないが……、違うんだ。俺は、シノを大切にしたいと本当に思っているんだ。でも、シノの抱き心地が良すぎてだな……」


 ジークリンデの言い訳に志乃は、目に力を入れて、そんなはずないと逆にジークリンデの襟首を掴んでいた。

 

「嘘です! 今の私は、ガリガリの骨と皮だけ、そう言って私を騙そうとしても無駄です! 第一、年上として、未成年にそう言った……ごにょごにょ……なことは駄目なんです!!」


「嘘じゃない! シノは、気が付いていないみたいだけど……。こっち」


 途中で言葉を切ったジークリンデは、志乃を横抱きにした後にベッドを後にした。

 そして、姿見の前に移動していた。

 志乃に鏡を前にしてこう言ったのだ。

 

「シノ、見て」


 そう言われた志乃は、首を傾げつつも鏡に視線を向けた。

 そこで見たものは、自分の目を疑いたくなるようなものだった。

 黒髪で、前髪の一部が白髪となっている綺麗な女の子が見えたのだ。

 信じられない光景に、志乃は鏡を凝視していた。

 志乃が瞬くと、鏡の中の女の子も同じように瞬く。

 首を傾げれば、同じように首を傾げる。

 志乃と全く同じ動きをする女の子に動揺した志乃は、助けを求めるようにジークリンデを見上げた。

 しかし、そこにあったのは、笑いを堪えるような表情のジークリンデだった。

 志乃は、自分が笑われていると感じ取り、頬を膨らませて、ジークリンデの胸をぽかぽかと叩いた。

 

「ジーク! 笑っていないで説明してください! もう!」


「ご、ごめん。でも、志乃が可愛くて……。くす」


 そう言って、自然な動作で志乃の額にジークリンデは口付けていた。

 驚きよりも、どうジークリンデに接していいのか分からなかった志乃は、口付けられた額を手で押さえて赤くなる。

 そんな志乃も可愛いと心から思うジークリンデは、鏡の前からソファーに移動していた。

 ただし、志乃は自分の膝に座らせていたが。

 ジークリンデは、自分の中の仮説を話してくれた。

 

「多分だけど、シノの聖属性の魔法が自動で発動したんだ思う。普通は、そんなことないんだけど。それで、聖属性は、癒しを司る属性だ。だから、弱った体が魔法によって元の状態に戻ったんだと思う」


 ジークリンデにそう説明された志乃は、自身の顔を両手で触れた後に、それでも納得いかないと眉を顰める。

 

「そうなのだとしても、腑に落ちません。さっき、お風呂に入るときに見た私は、骨と皮でした。そうだ! ジークがくれた香油です。あれを塗ったら肌の調子が良くなっていった気がします。きっと香油の所為です! 流石異世界です!」


 自分のなんとなく納得のいく回答を出した志乃は、香油の所為だと思うことにしたのだ。

 魔法というものがどういったものなのかさっぱりわからない志乃は、自分のした結果よりも、与えられたものでこうなったという方がなんとなく納得できそうだったからだ。

 そんな志乃の心情を知ってか知らずか、ジークリンデも志乃の出した答えに異を唱えることはしなかった。

 それよりも、ジークリンデには確かめねばならないことがあったのだ。

 腕の中の志乃の腰をぐっと抱き寄せて、密着した態勢になった後、顔を近づけて志乃に質問をしたのだ。

 

「ところで、シノ。さっき、年下とか、未成年だとか、逮捕とかいう言葉が聞こえてきたのだが?」


「ふえ?」


「もしかして、志乃は俺よりも年上なのだろうか?」


 ジークリンデの言葉で、依然自分の状況が何一つ変わっていないことに気が付いた志乃は、慌てるように藻掻いた。

 しかし、がっちり抱き寄せられた状態でジークリンデの腕の中から逃げることは出来なかった。

 

「ううぅ。離してください」


「駄目だ。それよりも、俺の質問の答えは?」


 志乃は、諦めたように溜息を吐いた後に答えを口にしていた。

 

「そうです。私は、ジークよりお姉さんなんですよ。二十三歳です。だから、未成年の貴方とは―――」


「年上……。見えないな」


「うっ。どうせ童顔です」


「そうか、見た目が幼く見えたから遠慮していたが、年上ならば問題ないな。よし、シノ。国に帰ったら結婚しよう」


「だから、私はどうが…………。んん?」


「俺じゃ嫌か?」


「えっ……。嫌ではないですけど……」


「よかった。それなら、帰ったら準備に取り掛かろう。俺としては、婚前交渉はありなのだが、シノは嫌か?」


「え? えええ?! ちょっ、ちょっと待って!」


「嫌だ。待てない。シノが好きなんだ。うん。これは一目ぼれで、俺の初恋だ」


 そう言って、ジークリンデは子供のように楽しそうに微笑んだのだ。

 その微笑みを見た志乃は、胸がぎゅっと締め付けられるような感覚に恥ずかしさを覚える。

 それでも、言わなければならないことがあったのだ。

 

「私を好きって言ってくれることは嬉しい。多分……。私もジークのこと……。でも、私の居たところでは未成年とそう言うのはだめなの! だから、そう言うのは全部ジークが大人になってから。それだったら、その、ジークのしたいことしても……いいよ?」


 恥ずかしさから、一息にそう言った志乃だったが、実は墓穴を掘っていたことなど知る由もなかった。



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