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第三章 デュセンバーグ王国へ(7)

 ジークリンデの救出が早かったおかげで、志乃はすぐに回復していた。

 用意してもらった下着と寝間着を着た志乃は、ジークリンデに言われるままベッドに横になっていた。

 何度も大丈夫だと言ってもジークリンデは、寝ていた方がいいと志乃を諭したのだ。

 迷惑をかけた自覚のある志乃は、逆らわずにジークリンデの言うことを聞いてベッドに入ったのだ。

 

 その後、ジークリンデはスープとパン、フルーツを用意して志乃に食べさせていた。

 今回もジークリンデが志乃に食べさせるという状況だった。

 最初は、自分で食べられると言っていた志乃だったが、ジークリンデの有無を言わさぬ空気に負けてのことだとも言えた。

 

 ゆっくりと食事をした後、志乃は気になっていたことを質問することにした。

 

「ジーク……。あの…いろいろ聞きたいことがたくさんあって……」


 そう口を開いた志乃に、ジークリンデは真面目な表情で首を縦に振って答えてくれたのだ。

 

「ああ。そうだな。俺もにシノにいろいろと確認したいことがある。まずは、シノの質問に答えよう」


「はい……。えっと、私もよく分かっていないんですけど……。ここは、日本じゃないんですよね?」


「ニホン? そうか、ニホンがシノの元居た世界なんだな。ここは、ニホンとは違う世界だ。今いる場所は、アルエライト王国だ」


 ジークリンデの口から、ここが異世界なのだと改めて知らされた志乃は、やっぱりそうなのかとため息をつく。

 そして、ジークリンデの口から出たアルエライト王国について聞こうとしたが、その前にジークリンデからとんでもない言葉が出ていたことに志乃は目を丸くさせていた。

 

「だが、数日でデュセンバーグ王国に到着する」


「え?」


 目を丸くさせて、混乱した様子の志乃の頭を撫でたジークリンデは、この世界について志乃に語った。

 アルエライト王国が、国に降りかかる災いに対抗するために聖女召喚を行ったこと。

 その召喚に志乃が巻き込まれてしまったこと。

 隣国のデュセンバーグ王国にも魔力溜りの影響が出ていることで、アルエライト王国に使節団として訪れていたこと。

 偶然志乃を見かけて、保護することになったこと。

 

 ジークリンデから聞かされた話に志乃は、眩暈がした。

 それでも、どうしても聞かなければならないことがあった志乃は、縋るようにジークリンデの服を掴んで声を震わせていた。

 

「あ……あの。私は、元の世界に戻れるのでしょうか?」


 志乃のその問いかけに、ジークリンデは、胸を鋭利な刃物で貫かれるような痛みを感じた。

 胸が痛む理由はなんとなく分かっていたが、今は志乃を優先させた。

 ただし、志乃をひどく傷つけることは分かっていたが、嘘を言うことは出来なかった。

 

「無理だ……。俺が調べた結果での判断だが、恐らく無理だろう」


「かえれない……。そう……ですか……」


 からからに乾いた声でそれだけ言った志乃は、深くうつむいていた。

 ジークリンデには、その細い両肩が心細そうに震えているように見えて、気が付いた時には、志乃を抱きしめていた。

 

「シノ……。俺がいる。俺が君を守るから。君を一人にはさせないから」


 志乃の細い体を抱きしめる。力を込めれば折れてしまいそうだとジークリンデは思った。

 できるだけ優しく、でも温もりが少しでも伝わるようにぎゅっと抱きしめる。

 

 志乃は、ジークリンデの力強い抱擁にドキドキする。

 志乃をすっぽりと閉じ込めてしまう大きな体。筋肉の程よくついた、鍛え上げられた肉体。

 柑橘系の爽やかな香り。

 そして、ジークリンデの胸からドキドキと大きな鼓動が伝わってくる。

 なんとなく、ジークリンデは嘘など言っておらず、真剣に志乃を守ると言っていることが分かったのだ。

 吊り橋効果なのかも知れないと、ただ、異世界で自分を守ってくれる人に依存しているだけかもしれない。それでも、それでも……。

 

 この優しい人と恋に落ちるために、この世界に呼ばれたのだと、そう志乃には思えてしまったのだ。

 この思いが錯覚でもいい。

 これほど胸が痛いくらい高鳴っているのだ。こんなにも、この人を可愛いと思えてしまえるのは、恋なのだと。

 そう、志乃は思いたかったし、そうであって欲しかった。

 

 志乃は、自然とジークリンデの背中に両手を回していた。

 それに気が付いたジークリンデは、さらに志乃をぎゅっと抱きしめ、二人の交わす抱擁は深くなっていった。

 

 

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